インターラーケン
これは重症だな~。顔の皮が剥けてきて、かなりみっともない。日本で日焼けするよりもボロボロになっている気がする。日本よりも日差しが強いせいなのか?それとも乾燥した空気のせいなのか?
まあ、それはそれはさておき、今日も静かなホテルブルメンタルの朝。御飯大好き人間が、もう一週間もハム、チーズ、パンの朝食。でも不思議と飽きない。ゆで卵は相変わらず旨いし。
部屋に戻って荷造りを終えたら重たいスーツケースを持って階段を下りる。何もかもが素敵なブルメンタルだが、エレベーターが無いのは何ともしんどい。ひじの関節が抜けそうだ。
チェックアウトの際に、チーフ改め「パートのおやじ」がいないか、まだ暗いレストランの厨房や、レセプションの奥の方を見回すが、姿は見えなかった。やはり、夜のレストランだけの担当なのだろう。
8月18日金曜日。人もまばらな通りをゴロゴロとスーツケースを押しながらミューレンの村に別れを告げる。
ユングフラウエリアの西端なのであまり便は良くないものの、素朴で美しく静かなアルプスの村ミューレン。ここに2泊したのは大正解。とても素敵な思い出になった。
ロープウェイを乗り継いで谷底のシュテッフェルベルクに降りると、時刻はもう午前10時半近くになっていた。
ちょっとのんびりし過ぎたかな?
今日の目的地はチューリヒ。距離は約200kmある。今日中に着きさえすれば良いとはいえ、スイス最後の晩御飯をゆっくり食べたいので、あまりあちこち寄り道している余裕はない。それに、みやげも買わないといけないしね。
そう思っていたのに、ラウターブルンネンの教会のところまで来ると、昨日は雲が多くてほとんど姿を見せなかったユングフラウが真っ白に輝くのが見えた。
最後にもう1度だけベルナー三山の全景を拝みたい!
そこで、次の経由地をハルダー展望台に設定。インターラーケンの街中に車を向ける。ハルダーはインターラーケンの町からケーブルカーに乗って、たった5分で行けるらしい。そこは、手軽にアイガー・メンヒ・ユングフラウといったベルナーアルプスを一望できるスポットとしてガイドブックに載っていたのだ。
地図を見ながら、ハルダー行きのケーブルカー乗り場を探してインターラーケンの町を走る。
が、一方通行やアーレ川や線路に阻まれてなかなかたどり着けない。そこで、適当な路肩のコインパーキングに車を止めて、そこから歩いて行くことにする。
チャリンチャリンとパーキングマシンにコインを入れていると、通りかかった初老の男性が大声を発しつつ「オイオイ」という感じで右手を挙げながら早足で我々に歩み寄ってきた。なに?怒られた?ここって駐車禁止じゃないよね?
幸い怒られた訳では無くて「ここのパーキングは正午から午後2時まで間は無料なのだ」と教えてくれたのだった。
ホッ・・・。てっきり、なんかマズイことやらかしちゃったかと思ったよ。
よく見ると、確かに小さく英語とドイツ語で注意書きがある。面白いシステムだなぁ。ランチタイムのサービスってことなのだろうか?おじさんの善意にも感謝。でも、残念ながら満額投入してしまったあとだったが。
トゥーン湖とブリエンツ湖を結ぶアーレ川の川岸に沿って歩く。遊歩道とアーレ川の間に柵は無く、とても開放的。
快晴の空にはパラグライダー。そして、輝く白い峰は昨日は雲に隠れがちだったユングフラウだ。
陽射しは強烈で、涼しい木陰を選びながら歩く。ミルキーグリーンの水面がキラキラと輝き、川面を渡る風が気持ちよい。散歩にはもってこいのアーレ川沿い。
しばらく歩くと歩行者専用の橋が現れた。そのすぐ上流には平行して鉄道の橋があり、年代モノの茶色い電気機関車が引っ張る貨物列車がゴトゴトと音をたててゆっくりと通り過ぎていく。
橋の中ほどまで行って、涼しい風に吹かれる。
ゆるやかなの流れの先に時計塔が見える。インターラーケンの旧市街だと思っていたその時計塔の周辺は、実はウンターゼーンという別の村なのだそうだ。
つまり、今歩いていた川岸はウンターゼーンで、橋を渡った向こう側はインターラーケンということになる。
歩行者専用の橋を渡って対岸に出たら、トゥーン湖方向に戻るように歩く。つまり、アーレ川沿いの散歩があまりに気持ち良いので、ハルダーに行くのをやめてしまった我々。
今度は正面にウンターゼーンの旧市街を見ながらアーレ川の対岸を歩く。数羽の鴨が流れを行ったり来たりしている。
中世の趣の残る木造の水門を過ぎると、子供たちが遊ぶ裏路地を抜け、再び橋を渡ると、車のところに帰って来た。そのまま車の脇を通りぬけ、さっき見えていた時計塔を目指す。涼しい日陰を歩いてすぐだった。
さんさんと降り注ぐ夏の太陽に、石畳と周囲の建物の反射が手伝って広場はとても暑い。
彼方に見える白きユングフラウと、そばにある可愛いらしい噴水が多少はそれを紛らしてくれるが、他に人の姿が見えないのはやはり暑さのせいか?
それとも、ちょうど昼休みだからだろうか?
日本だったらやかましく聞こえるはずのセミの声もなく、時折、石畳の道を走り抜けて行く車の音がする以外は、夏の昼間とは思えない静寂があたりを包んでいた。
木彫りの町ブリエンツ
今日でお勤めを終え、明日朝一番にレンタカー屋に返却となる相棒「パンダ」は賑やかな繁華街を抜け、インターラーケンオスト駅の前を通過し、道を間違えながらいつの間にかブリエンツ湖の北岸に出た。
湖畔の田舎道をしばらくのんびり行くと、茶色い屋根で統一された小さな町が現れる。木彫りで有名な湖畔の町ブリエンツだ。
ポストバスの停留所にもなっている湖畔にある公園のパーキングに車を止めて、小さなこの町を少し散歩してみる。
表通りに数軒の木工細工の店や工房らしきものが並んでいる。
ショーウィンドーをのぞきながら歩く。どれも精巧に出来ていて、そして値段も高い。手の平サイズの小さなものでも最低5千円以上。大きなものだとすぐに数万円から数十万円になる。到底手が届く代物ではないが見るだけならタダである。
その中のとある一軒に立ち寄る。ここは木工細工というよりは木製玩具の店といった風情で、恐らく大部分はブリエンツ産ではないのだろう。そのかわり、リーズナブルなものが並んでいる。店の片隅の椅子に腰掛けた、細面に不精ヒゲの店主。微笑みをたたえつつこちらを見ている。
リーズナブルなネズミの引き車を購入し、店を出る。(後日、このネズミの引き車はスイス製では無くチェコ製らしいことが判明)。
湖畔の小さな公園を歩く。陽射しは相変わらず強いが、氷河の雪解け水を集めた湖は水温が低いのだろう。湖から来る風が涼しく心地よい。
ベンチや階段には、静かに並んだ老父母、おしゃべりする家族連れ、上半身裸で寝そべる若者がいて、それぞれ夏の一日を楽しんでいる。我々もしばし腰掛けてミルキーブルーの湖を眺めて過ごす。
そろそろ先に進もう。再び車を走らせてブリエンツの町を抜ける・・・つもりが、左側から立ち上る煙を見つけ、すぐにブリエンツ駅のパーキングに滑り込む。
煙の主はブリエンツロートホルン鉄道(BRB)のかわいい蒸気機関車のものだった。緑色のボディは急傾斜を登るためにボイラーを前のめりに傾けていて、赤いかまぼこ型の客車をうしろから押し上げるようにして、発車時間を待っている。
ちょうど改札の時間になっていて乗客が赤い客車に乗り込んで行く。しかし、ロートホルンの山頂まではこの蒸気機関車で50分もかかるとのことなので、今回はパス。駅員さんにお願いしてホームで写真だけ撮らせてもらう。
ブリエンツの町とブリエンツ湖に別れを告げ、チューリヒに向けて北上開始。森の中を行く道は連続カーブで徐々に高度をあげていく。ライダーの姿が増え、コーナーを立ち上がるたびに彼らに追い抜かされる。
道が緩やかになると、ルンゲラー湖・サルネン湖といった小さな湖を見ながら田舎道のドライブ。天気はいい。あこは寝ている。
やがて、大きなフィーアバルトシュテッテ湖が現れると高速道路に入る。この先にはリギ山、ピラトゥス山といった登山電車でいける場所がある。時刻は午後4時。まだ充分に明るいので、どちらかに上がれないものか?と、助手席ではガイドブックを開いてあこが情報収集をしている。
ルツェルンの城壁から
上空は青空なのに、左に見えるはずのピラトゥスは雲に隠れていた。湖の向こうに見えるはずのリギ山も山頂付近は雲がかかって見えない。スイスの天気は気まぐれだ。経由地をルツェルンの街に変更。
久しぶりの街中ドライブに戸惑いながら「City Central」の看板を目で追いながら走る。町並みを楽しむ余裕のないまま、気が付けばルツェルン駅の地下駐車場に滑り込んでいた。
地上へ出る階段を見つけてそこへ向かうと、同じように階段を目指してやってきたパンク風の兄ちゃんと一緒になってしまい、薄暗い階段を我々が先に、すぐあとからパンク兄ちゃんという順序になる。黒い革ジャンにジャラジャラとした装飾、そしてピアスにタトゥー。
後ろを歩く彼が気になって仕方がない。
もう出口だ・・・と思いきや甘かった。地上へとつながる鉄の扉はどういう訳か施錠されていて開かない。
私に続いてパンク兄ちゃんも扉をガチャガチャとやってみるが、やっぱりだめ。薄暗い踊り場で顔を見合わせる日焼けで顔がボロボロの私と、ピアスで穴だらけの彼。なす術なく引き返す。
結局、一旦、駅構内に入り、そこから表に出ることが出来た。
時刻は午後4時。陽は高く、暑い。駅前は行き交う人で賑わっている。ちょうどロイス川の観光船が船着場から離れてフィーアバルテシュテッテ湖の方に向かって行く。それを背にしてロイス川沿いを歩く。
ゼー橋のたもとを横切ると、ロイス川にかかる屋根付きの「カペル橋」が現れる。円柱型の見張り塔が寄り添い、川面に印象的な姿を写している。
綺麗な花に彩られたカペル橋。この時間でも陽射しは強烈で、屋根付きの橋と古びた木の香が一瞬ホッとさせてくれる。対岸には中世の町並み。川沿いにはカフェのパラソルがびっしりと並び、午後のひとときを過ごす人々で溢れている。
我々も、車中で凝り固まった体を休ませるべく座るところを探すが、それは困難を極めた。
ほとんど空席が無いのも事実だが、それよりも、子供を除くほぼ全ての人々が摂取するのが軒並みアルコール飲料だということが理由として大きい。
ドライバーである私に当然それは出来ない。
かといって、周りがみんな酒を飲んでるなかで、ビールを我慢しつつ、ひとりだけジュースを飲むというのは、精神的には全く休憩にならないのではないだろうか?
スターバックスコーヒーを発見。そこの涼しい2階席に陣取り、やわらかいソファーに深々と腰掛ける。
一休みしたら、ルツェルンの旧市街を横切るカペル通りを歩き出す。中世の趣が残る細い道を行くと、すぐにカペル広場。
教会があり、ブランドショップなどがさりげなく並んでいる。さらに少し行くと道が開けて今度はコルンマルクトと呼ばれる広場。フレスコ画の描かれた建物に西日が遮られて涼しげな雰囲気。
大きなCOOPがあったのでチョイと覗いてみる。
食料品だけでなく、みやげものも豊富に揃っているので、あとでもう一度立ち寄ることにして、そのままカペル通りを進む。カペル通りの終点はロイス川に面した広場になっている。
そこからもうひとつの屋根付き橋「シュプロイヤー橋」が架かっている。こちらはカペル橋と違って旧市街の外れにひっそりとあり、地味な雰囲気。
旧市街の北側に伸びるムーゼック城壁を目指してロイス川沿いを歩く。かつてはルツェルンの待ちを取り囲んでいたという城壁も、現在はこの北側の900mが残っているだけとのことだが、それでも9本の塔が残っている。
しばらく行くと城門をくぐり、城壁の外側から斜面になった牧草地を登るとメンリ塔の入口。
薄暗い狭い階段をグルグルと登ってメンリ塔の頂上に到着。
軽く呼吸を整えたら、大きく彫られた銃眼から身を乗り出して周囲の景色を見る。遠くの山々はまだ雲の中だが、白い壁と赤茶色の屋根に統一された家々は西日を浴びて輝いている。城壁周囲の緑とロイス川の流れが涼しげだ。
ムーゼック城壁の西の端にあるメンリ塔。そこから城壁の中を通って東の方へ。歩くうちに表へでて、城壁の上を歩く感じになる。
城壁の内側はうっそうとした木々が生い茂って、塔の上と比べると景色はイマイチ・・・というより、なんとなく近くの建物が見えるだけで、ルツェルンの街並みを眺めるポイントはない。
銃眼の間から城壁の外側に目をやると、学校の運動場らしいのがあり、サッカーをする子供達の声が響いている。運動場の外側の芝生では一組のカップルが抱き合い寝転がったまま微動だにしないでいる。
3つ目の塔の先から城壁を降りて旧市街へ。
さっき寄ったCOOPに立ち寄り、最後のおみやげタイム。まずは性懲りもなくお菓子類を数点。それと、チョイ高め(と言っても40スイスフランくらい)のワインオープナー。最後に食品売り場に行って、スイスワインを購入する。
ロイス川沿いを歩く。ワイン満載の買い物袋が手に食い込んで痛い。時刻は午後6時過ぎ。陽射しは少し和らいで来たが、対岸に並ぶカフェのパラソルは先程と同じように賑わっている。
地下駐車場を出たら、高速道路を示す標識に従ってルツェルンの新市街を抜けて行く。そして、高速道路に入ったらすぐに最初のパーキングに立ち寄り、奥の方の空いているエリアに車を止める。チューリヒに着く前に少し荷物の整理をしておこう。
スーツケースを広げ、さっき買ったワインなどのおみやげ、床に散らばったガイドブック、荷室に放り投げてある靴などを今のうちになるべく整理して詰めておく。明日の朝一番にはレンタカーを返さないといけない。
1台のバスが止まった。
中からインド系らしい団体が出てきて、芝生の上に何やら広げ始めた。あれよあれよという間にカレーパーティ会場に様変わり。コラコラ、ここはパーキングエリアだぞ。
しかし、匂いはイイ。急激に空腹が襲ってきた。我々も早くチューリヒに入ろう。
再びチューリヒ
高速に乗ってしまえばチューリヒまではあっという間かと思いきや、地図をよく見ると、チューリヒ湖畔の手前で高速は途絶えている。その高速の終点で、まんまと渋滞にハマッてしまった。
数百メートル先に見える信号ひとつを越えるのに、何十回(は大袈裟かも?)も赤信号に引っ掛かる。
渋滞を抜けるまでに日が暮れて、空は茜色。渋滞を抜けて右手にチューリヒ湖を見ながら走るうちに空はすっかりトワイライトになっていた。
スイス最後の宿「セントヨセフ」はチューリヒ駅から程近い丘のふもとにあった。一週間前に走ったので多少の土地感もあり、場所はすぐに判ったのだが、一方通行や右左折車禁止が多いうえに、路面電車がガンガン走っていてなかなか近づけない。
20~30分もホテルの周辺をグルグルしたのち、やっとこホテルの目の前に来たものの、今度は車を止める場所が見つからない。
再びグルグルと周辺をさまよう。やがて、ホテルから一段低いところに、表通りから掘り進んだトンネルか倉庫の様な駐車場に空きを見つけ、そこに落ち着いた。
セントヨセフの館内は白に統一されていて、無駄なものが一切置かれていない。設備は最新で、カード式のキーもあまり見たことのないタイプなので使い方に戸惑う。
さて、腹も減ったし、夜遅くなると食事が出来る場所が減るので、そろそろ出掛けないといけない。
しかし、シャワーを浴びてベッドに寝転がると、長旅の疲れか、それとも無事にここまで来れた安心感のせいか何だか起きあがれず、デジカメの写真を眺めたり、ぼんやりガイドブックをめくったりして、だらだらと時間を費やす我々。
そんな自分に踏ん切りをつけるように「ヨイショ」と声を出して起き上り、すっかり暗くなったチューリヒの街に出る。
時計は午後10時少し前。駅前通りからリマト川沿いの道をチューリヒ湖畔に向かって歩く。さすがは大都市。この時間でも若者達を中心に街は賑わいをみせている。
ミュンスター橋を渡って、かつての武器庫がビアホールになった「ツォイクハウスケラー」に行く。客の姿は少ないが、広いホール内はワイワイと声が響いている。
悪くない雰囲気。が、もう時間が遅いので飲み物しか出せないとのこと。再び、ミュンスター橋を渡り、数人の聖歌隊の歌声が響く教会の脇を抜け、ガイドブックに載っていたレストラン「ル・デザレ」へ。しかし、ここも既にバータイム。
しまった!ダラダラし過ぎたか!
食べ物を求めて、ニーダードルフ通りにでる。いかにも「盛り場」という風情の狭い小路は、行き交う人々で賑わっている。チューリヒ駅の方へしばらく歩くと小さな広場があって、テーブルが多数並んでいる。そして、忙しく動き回るウェイターの手には食事が載っている。
やれやれ、これでようやく食べ物にありつけそうだ。
スイス最後の夕食は今回の旅で一番賑やかな場所での食事となった。ビールにサラダ、小さな電熱プレートの上に乗ったラクレット、羊肉の料理などをオーダー。小さなテーブルの上はすぐにいっぱいになった。
旅行者なのか、それとも地元の人かは分からないが、みんな気取らない感じ。彼らの熱気と夜の冷気、それにアルコールが交じり合って心地良い時間が流れて行く。
すっかり満腹になった午後11時半過ぎ、我々は酔い覚ましに夜のチューリヒを歩いていた。
淡いオレンジ色の街灯に照らされた石だたみの道を抜け、路面電車の行き交うバーンホフ橋を渡ってチューリヒ中央駅へ。構内にはまだ明かりのついた店が数軒あり、若い人達でごった返すコンコースは真夜中とは思えない雰囲気。ホームには列車達が静かに並び、白いヘッドランプと赤い尾灯が光って見えている。
駅を出てホテルの方へと歩き出すと途端に人影はなくなり、もの寂しげな街角となる。ショーウィンドーの明かりに吸い寄せられるように歩くうちに、いつしか道を間違え、だいぶ遠回りしてホテル到着。午前1時、気絶するように就寝。