ワイキキ散策
八角形をしたツインタワーが目印のハイアット・リージェンシー・ワイキキ。 東側のダイヤモンドヘッド・タワーの34階が私とY中さんのアジトとなる。果たして窓からの景色は?と胸躍らせてカーテンを開けテラスに出る。
ガッカリ・・・。
目の前には西側のタワー「エヴァ・タワー」が立ちはだかっていて、視界の大部分を占めている。真下に小さく見えるプールが辛うじて34階という高さを感じさせる。
ロビーに降り、ここでようやくエヴァ・タワーの35階にいるあこと合流。時計を見ると時刻は午後4時をまわっている。まだ表は充分に明るいが、これから遠出するのには少し遅い。
そこで、まずは2人で5年ぶりのワイキキ・ビーチへとでる。
天気は快晴とはいえず、ダイヤモンドヘッドに若干の雲がかかっているものの、日差しは強い。揺れるヤシの木陰とその先に見えるマリンブルーの海が、ハワイに来たことを改めて実感させる。
ワイキキビーチを見ながら、カラカウア通りをさらに東へと進む。ビーチの人口密度は高く、歩道にも水着姿の人々があふれている。ビーチの先に桟橋が現れると、そのあたりがクヒオ・ビーチ。桟橋の先からは堤防が延びていて、このおかげで穏やかな波と適度な水深が確保されている。周辺には子供達が大勢いて、堤防の上から次々に海へ飛び込んでいる。元気がええのぉ。
クヒオ・ビーチを過ぎて緑が多くなってくると、そこがカピオラニ公園。
カラカウア王によって寄贈され、その王妃「カピオラニ」の名を冠した大きな公園。良く手入れされた芝生の広場には、いくつもの大木が横に広く枝を伸ばして、芝生に日陰を作っている。
たくさんの幹が集まって、遠くからだと太い一本の木のようにみえているのが、有名な「モンキーポッドの木」かな?
その幹の密集したところは、近づいてみると意外に隙間だらけ。そのあいだを通りぬけてみる。さほど苦もなく反対側にでる。大人にとってはそれだけのことだが、子供達は元気に追いかけっこをしたり、よじ登ったりしている。横へとひろがった枝からは、根とも蔓ともつかないものが枝の重さを支えるように、地面へと伸びている。
夕暮れ
カピオラニ公園の端をかすめてさらに内陸部へ。数ブロック進むと高層ホテルはなくなり、マンションや学校、それに小さいながらも「for SALE」と書かれた空地も現れる。いくらで売り出されているのかな?
視界が開けると、そこがアラワイ運河。
運河はビーチと並行して、ワイキキのホテル群の裏をまっすぐに延びている。緑がかった水は、あまり流れがなくて澱んだ感じだ。対岸には緩やかに波をうつ、ゴルフコースの芝生がひろがっている。
道路の反対側にはアパートやマンションが並んでいて、庭に植えられた草花が綺麗な花をつけている。その奥には、そびえたつ高層ホテル群が見え隠れしていて、ビーチ近くの道を走る車やバスが、ビルの谷間を横切っているのが見える。これらを通して、遠くから小さく「ゴーッ」とワイキキの喧騒が伝わってくる。
岸辺の歩道は街路樹やベンチが綺麗に整備されていてる。でも、運河とのあいだには遮る柵がない。このあたりが、いかにもアメリカ的で面白い。初めはチョットおっかないし違和感もあるが、歩いているうちに慣れてきた。
散歩しているのは我々だけではなくて、しばしば人とすれ違う。それ以上に多いのはジョギングをする人達。アメリカ人はジョギング好きらしい。
でも、旅先・・・しかもこんなに暑いハワイに来てまでもジョギングせんでもイイだろうに。でも、実は地元の人間なのかも知れない。
水面には、何艘ものボートが勢いよく行き交っている。漕ぎ手はみんな若い。たぶん高校生か大学生のボート部だろう。しかも、女性のボートも見える。ここでは最近はすっかり見かけなくなったキックボードが大活躍している。コーチらしい少し年配の女性が、これに乗って歩道をせわしく移動しながら、ボートに向かい声を張り上げている。よそ見して運河に落っこちなきゃいいけど・・・。
陽も傾いてきたので、運河を離れて再びビーチの方向へ。ハイアット・リージョンシーの脇を通り、ロイヤル・ハワイアン・ショッピングセンターを経て、さらにザ・ロイヤルハワイアンやシェラトンといったホテルのロビーを抜けてビーチに出ようと試みる。
でも海辺の良いところはバーやレストランになっていて、当然、お金がかかる。それにながめの良いところは満席で、我々につけいる隙はなし。それはともかく、あかね色に変わりつつある空。それに生バンドが奏でるハワイアンが、いかにも楽園って感じでたまらなく良い雰囲気。
さらに西へと歩く。ホテルとホテルのあいだの、足元がじめじめとした裏道を抜けていくと、ようやくビーチに出る。いわゆるワイキキ・ビーチからあまり離れていないのに、さほどゴミゴミしていないココは、フォート・デ・ラッシ・ビーチ。右方向に、まさにオアフ島の低い島影に隠れる寸前の太陽が見える。海岸から、防波堤とも岩場ともつかないものが延びていて、その上や周辺に人々集まり、沈んでいく夕陽を眺めている。
くつを脱いで波打ち際へ。真っ白な砂がしっとりと柔らかくてキモチイイ!それでいて砂に足がもぐり込まずに、ヒタヒタと足の裏に伝わる締まった感触。砂粒がとっても極め細かい証拠。
とてもじゃないが九十九里浜や稲毛の浜では味わえない感覚(←千葉ネタ)。足に触れる砂と波が心地よい。風もいつしか涼しげ。なかなか波打ち際から離れらない。
やがて、上空にうっすらと青さを残して海は闇に包まれる。島影や空との境界線があいまいになって、沖を行く遊覧船の灯火だけが浮かび上がる。気が付くと時刻はそろそろ午後8時。シャワーで足の砂を落とすと、晩御飯を求めてビーチをあとにする。
テキーラで乾杯
フォート・デ・ラッシ公園のなかの平べったい建物を回りこんで正面へまわると、そこに並んでいるのは戦車や大砲。屋上をみあげると、ヘリコプターの姿も見える。
ここは「アメリカ陸軍博物館」なる施設。暗くなった周囲に人の姿はまばらで、館外に展示された装備車輛だけが、ライトの明かりで不気味に浮き上がっている。
今回はとっくに閉館時間を過ぎてるが、ここには数年前に入ったことがある。館内には大東亜戦争を中心に、朝鮮戦争やベトナム戦争に関する兵装や資料などが展示されている。そのなかには「アドミラル・ヤマモト」の凛々しい写真や、「エアクラフトキャリア・アカギ」などの帝國海軍艦船の模型も並んでいる。でも日本人の姿はほとんどなく、それに日本語の解説も皆無。なんとなく居心地の悪い博物館だ。
公園を横切るバス通りへと出る。芝生の端っこにポツンとあるバス停には、すでに4~5人の人達がバスの到着を待っている。19・20番をはじめ、5系統のThe Busが通るはずなのに10分以上待っても1台も現れない。
上空もすっかり暗くなって、芝生のところどころに明かりを落とした街灯が、公園をとても奥行きの深いものに見せている。
・・・と、その時、海の方角からバーンと大きな音がして、空が明るくなった。なんの前触れもなく始まった花火は、ビーチに近いホテルの向こう側に打ち上がっている。それが、風に流されているのか意図的なのか?恐らく後者だろうが、30度くらい傾きながら尾を引いて、ホテルの陰から飛び出てきては、ヤシの木の向こうで炸裂している。
南国の夜空を彩るショーは10分足らずであっけなく終了。人込みも浴衣も屋台も生ビールもない花火は、澄んだ空には綺麗だが、季節遅れに咲いた花みたいに、どことなく寂しげだ。
ようやくバスがきた。なかなかの混雑。停留所名がない、車内での案内もない・・・というのがこれまでのThe Busの認識だったが、この車輛は違った。
車内前方の電光掲示板に停留所名が出ているし、聞き取れるかどうかは別にして、音声による停留所のアナウンスもある。降車の合図に窓際のヒモを引っ張るというのは相変わらずだったが、以前に比べて確実に進歩している。
アラモアナ・ショッピングセンター前で大方の乗客が降りてしまうと、車内はガラ~ンとしてしまった。我々は、その2つばかり先の停留所「ワードセンター」前で降りる。
ワードセンターは2階建ての小規模なショッピングセンター。この時間、飲食店を除くその他の店はすでに閉まっていて、建物全体が暗~い雰囲気。ひと気のない入口から中へと進む。暗く静かな外観の割に、駐車場には車がびっしりで意外な感じ。エスカレーターで2階へあがると、BGMが洩れ聞こえる小さなレストラン街へと至る。
賑やかなメキシコ料理店「コンパドレス」の、テラスの隅っこにあるテーブル席につく。屋根が邪魔して空はほとんど見えないが、店内から流れてくる冷房の風と、それに陽気なBGMが加わって爽快な気分だ。
とりあえずコロナビールね。それと、隣りの白人男女4人のテーブルにある巨大マルガリータが面白そうだったので、これをオーダー。この4人のなかの一人がなかなか愉快なキャラクター。でっぷりした体にパーマのかかった長髪と真っ赤な顔。その大きな声と態度から察するに、彼がリーダー格らしい。歳は40代半ばくらいだろうか?
大胆に床の上に置いた大きな財布と携帯電話が、いかにも地元人って感じだ。外見同様に飲みっぷりも豪快で、ショットグラスのテキーラをやりつつ、巨大マルガリータをチェイサーにしている。
我々のテーブルにコロナビールと巨大マルガリータが運ばれてきた。すると隣の豪快な彼は、我々の方に向かい、
「Oh!お前らマルガリータ頼んだのか。でも、どうしてテキーラを頼まないんだい?」
(相手のジェスチュアに私の貧弱なヒヤリング力を加味した私なりの解釈。以降の会話シーンでも同様だが、このテの注釈は割愛する)
な~んて陽気に話しかけてくる。直後、彼はウェイトレスを呼ぶと、私と自分を指さしながら何やらオーダーしている。まわりの3人もなんだか楽しそうだ。
「今のやりとりって、”俺とアイツにテキーラを頼む”って言ってたと思わないか?」
「そ~としか思えないヨ。だって、妙に嬉しそうだもの」
「時差ボケ・寝不足・空きっ腹」でテキーラに挑むのは危険この上ない。
取りあえずタコスをツマミに、コロナビールをチビチビとやりながら成り行きをうかがうと同時に、胃袋を臨戦態勢にもっていく。
やってきました「テキーラ×2杯」。やっぱりネ。隣のテーブルはさらに盛り上がる。思えば、彼と同じものをオーダーした時点で、自ら彼のおもちゃになりにいったようなものだったかも。
テキーラショットなんて学生時代にお遊び程度にやって以来だったので、今にも乾杯したそうな勢いの彼を制してお願いをする。
「どうか私に、ベーシックなテキーラの飲み方を教えてください」
彼が教えてくれた手順はこうだ。
1.自分の手の甲を舐めて濡らす
2.そこに塩を振る
3.乾杯して、塩を舐める
4.テキーラ一気飲み
5.ライムで口直し
手の甲に塩を振ったら、ショットグラスを手に持ち、ふたり並んで立つ。
「Cheers!」
「かんぱ~い!」
ゴクッ・・・。
くぁーッ!!食道が熱い!ライムライム・・・。
酸っぱいハズのライムが口に爽やかなのは、やっぱり強い酒のせいなのか?テーブルから喝采が沸く。酒を飲んだだけでこんなに注目を浴びるなんて・・・。しかし、たいして言葉も通じないのになにやら打ち解けた雰囲気になるってのが、お酒の不思議なところ。
「俺の名前はデイエットだ。でも、ニックネームは”ビールっ腹”だ。ワハハハッ!」
と、その立派な腹をさすりながら彼。彼が唯一しゃべった日本語が、この「ビールっ腹」。一体どこで教わったのやら。
「お前たちは、夫婦か?」
「いや、彼女はフィアンセだ。」
「Congratulation!」
口々に祝福を受ける。嬉しいけど照れくさいものだ。そもそも、親兄弟を除けばフィアンセだと他人に紹介したこと自体が初めてだし。こっちからも、テキーラをご馳走するのが礼儀かな?とも思ったが、明日の朝が早いので自粛する。「ビールっ腹」氏のことだから、2杯目以降、際限のないテキーラ合戦になりかねない。
やっぱり、物足りなかったらしい「ビールっ腹」氏。今度はお互いのテーブル上に載っている巨大マルガリータの早飲み競争をしようと言い出した。仕方ない・・・テキーラの応酬になるよりはずっと危険性が少ないだろう。私とあこ、氏と隣の女性がペアで、2本のストローでマルガリータに挑む。
READY GO!
むむ・・・やはり連中は速い。徐々に差が開いてくる。相方の女性は時折ストローから口を離して休憩したりしているので、ほとんどは彼が飲んでいるに違いない。こちらは、結構あこも頑張っているが彼のペースは落ちずに差は開く一方。さすがは「ビールっ腹」。恐るべしアングロサクソン。
うぃ~。
すっかり酔っ払っちまった。普段は酒を飲んでもほとんど顔に出ないのだが、「ビールっ腹」氏に負けないほど真っ赤になってしまった。それにすっごく眠い。名残惜しいが、そろそろ帰ることにしよう。隣の4人に別れのあいさつをする。
「テキーラをありがとう。楽しい時間をありがとう。そして、独立記念日を祝福します。」
握手をして店を出る。疲れた。でも楽しかった。英語が話せれば、もっと楽しかっただろうなあ。
タクシーを求めて夜道を歩きアラモアナ・ショッピングセンターへと向かう。夜の街外れを歩く緊張感と、涼しい夜風が酔い覚ましにはちょうど良い。午後11時をまわったアラモアナは照明のほとんどが消えていて、ガラ~ンとした駐車場だけが冷たく光を放っている。ちょうどやってきたバスに乗り、ワイキキへ。部屋に戻ると、すでに熟睡のY中さん。音を控えめにシャワーを浴び、午前0時半就寝。
「ビールっ腹」氏と他3名は、きっと、まだ飲んでいるのだろうな。そうそう、コンパドレスはその陽気な雰囲気だけでなく、料理も大変美味しかったことを付け加えておこう。