KLM
今年の年末年始は曜日並びが良くて9連休!
それに気付いたのは、まだ夏休みのスイス&ドイツ旅行の余韻覚めやらぬ9月初旬のことだった。今の会社で働くうちは、こんなチャンスは滅多にない。
試しに翌年以降のカレンダーをチェックしてみると・・・9連休が取れそうなのは2012年~2013年の年末年始まで待たねばならない。
こりゃあ、今年は思い切ってドドーンと海外でお正月だぁ!
さて、我々の新婚旅行の行き先を決める際には、うちの両親の「パリが一番」という意見を大いに参考にさせてもらった。
だが、人の心は移ろいやすいもの。両親の評価はいつの間にか「ウィーンが一番」へと変わってしまっていて、今年の春も10日間かけてウィーンを満喫してきたらしい。
ウィーンねえ・・・。そもそも冬のヨーロッパってどうなのよ?
日が短くて寒そうなイメージしかない。もっとも、我々には「南の島でお正月」てのもなんとなく想像しにくいから、どうせ海外へ行くならやっぱりヨーロッパか・・・。
ウィーンと言えば音楽の都。毎年、元旦にテレビ放送されているニューイヤーコンサート。さすがにあれは競争率的にもお値段的にも無理だろうが、何か他の音楽会でもいいな。
ウィーンで音楽鑑賞・・・なんと優雅な響き。
そしてウィーンと言えば「第三の男」。父親が大ファンだった影響を受けて、ビデオテープが擦り切れるほど見たあの映画の舞台となった地を踏む。それも素敵。
後半は隣国スイスのスキーリゾートにでも行ってみるかな?今回行くとなれば、これで4回目のスイスになる訳で、ボチボチそうゆう世界に足を踏み入れても良かろう。
あっと言う間にその気になり、安くて遠回りじゃない航空会社を大急ぎで探す。以前のようにバンコク経由だったりするとツライ。
アムステルダム経由でウィーンIN・ジュネーブOUTのKLM便に空席を発見。隣り合わせの国とはいえ、ウィーンはオーストリアの東端で、ジュネーブはスイスの西端。結構な距離があるわけだが、その移動方法を考える前に、とりあえずチケットを押さえることにする。
2007年12月29日土曜日。
正月飾りに彩られた成田空港は、想像していたよりも空いている感じ。ほぼ定刻通りにKLM862便は、冬晴れの成田空港をアムステルダムに向けて飛び立った。
滞在地はウィーンとジュネーブ。
旅の前半はウィーンの街を堪能。後半は、勝手知ったるミューレンのホテル「ブルメンタル」に泊り、ウィンターリゾートを楽しもうと目論んでいたのだが、残念ながら年末年始は満室であった。あの村は夏よりも冬のほうが盛況らしい。そんな訳で無難にジュネーブ泊とし、レンタカーを借りることとした。
飛び立ってしばらくの間は雲もほとんど無く、窓の下には青い海がひろがっている。
しかし、灰色のユーラシア大陸が見えてくると徐々に雲が増え始め、「ウラジオストック上空」の機内放送があった頃には空の果てまで白い雲に被われ、地上は全く見えなくなっていた。
表は昼だが、機内だけは夜になる。やがて短い夜が明けてしばらく経つと雲が切れて、広大なロシアの大地が現れた。
低い太陽に照らされた大地は、影が伸びて起伏を浮かび上がらせている。再び厚い雲が大地を被いはじめて、そのまま2~3時間が経過。しかし、冬の北半球の低い太陽はなかなか落ちそうで落ちない。
再び視界が開けたのは高度を下げ始めてから。雲の層をくぐり抜けると眼下にはオランダ。どこまでも平らな低地を照らす冬の太陽は弱弱しく、美しい田園風景と林はどこか寂しげ。四方に伸びた運河には、大小の船がゆっくりと進んでいる。
風車はないかな?と眼をこらしてみるが見つからないまま、やがてスキポール空港に到着。定刻の午後4時10分よりも1時間ほど早い。
夕暮れのアムステルダム
ウィーン行きのKLM1849便は午後8時15分発。もとから、トランジットの間にアムステルダム市内へ繰り出すつもりだったのだが、さらに早着もあって5時間近くある。これは嬉しい。
飛行機を降りたら、そのまま出国ゲートへ。
・・・が、我々のパスポートとチケットを確認した係員は「搭乗口はあっちだ」と後ろを指差した。いやいや、ちょっとアムステルダム観光してすぐ戻ってくるのだ・・・とカタコト英語で告げると若干眉を曇らす係員。でも、5時間もあるし・・・。
「いや、4時間だね」
腕時計を見ながら係員には言い、そしてゲートを通してくれた。「早く帰って来い」ってことらしい。
アムステルダムまでの切符を買ってホームへ。すでに入線していた2階建て車両に乗り込む。オランダ国鉄のボディカラーは黄色。霧の多い国ではこれが目立つのかも知れない・・・にしてもこの列車やけに空いてるな?
念のため、車両の向こう端に座っていた老婦人のところまで歩いて行き、この列車はアムステルダムまで行くのか聞いてみる。 すると、老婦人は背もたれから体を起こし、目を見開いてこう言った。
「No!」
慌てて階段を駆け下りる我々。だが、無情にも「プシュー」と音をたてて扉は閉じてしまった。
ゆっくりと走り出す列車。林の向こうに沈んで行く夕陽に窓が染まっている。実際は5分くらいだったかも知れないし、ずいぶん長い時間走っていた気もするが、ようやく駅に停車したのでそこで下車。
周囲は片田舎の住宅地のようで、タクシーなど居そうもない。20分ほど空港へ戻る列車を待つことにする。
日は沈んでしまったが、まだ明るさが残るどんよりとした曇空。風は無く、ピーンとした寒さがホームを包んでいる。息が白い。これがヨーロッパの冬か・・・。
ようやくやってきた電車に乗り込み、再びスキポール空港に到着。今度はちゃんと行き先を確認して乗り込む。やはり、大都市へ向かう車内は、さっきのと違ってだいぶ人が多い。
う~む、かなり時間をロスしたな。せっかく飛行機が1時間近くも早く着いたのにすっかり帳消しになってしまった。
午後5時ちょっと前、アムステルダム中央駅に到着。
乗降客でごった返す構内は、工事箇所が多いせいか照明は控え目で薄暗い感じ。行き交う人々の表情もどことなく暗く感じる。
さて、まずは干拓の国オランダを象徴する大きな北海運河を拝むことにする。
あちこち工事中で殺風景な北口を出る。ところどころに水たまりが出来ている通りを渡ると、すぐに北海運河の岸辺。そこに横付けされた船が駐輪場になっていて、びっしりと自転車が並んでいる。
藍色の空には雲がひろがっていて、黒々とした水面が小さく波立っている。対岸の市街地との間を結ぶ小さなフェリーが冷たい風のなかを行き来している。「津軽海峡冬景色」の歌詞が頭をよぎる。顔が冷たい。
再び駅構内を通って南側に出る。市街地が開けたこちらが正面口。こちらも工事中の箇所が多く、足元はガタガタ。フェンスやクレーンもある。
アムステルダム中央駅は、東京駅のモデルになったという説があるらしいが・・・まったく似とらんなあ。同じなのはレンガ作りって点くらいだろう。
トラムが行き交う駅前広場。歩道の半分くらいはずらりと並んだ自転車に占領されている。干拓地の上に出来た平らなアムステルダムは、自転車の利用者が多いらしい。
自転車を避けつつ、そのままニーウゼイテス・ヴォールブルグワル通りに入り、アムステルダムの中心地「ダム広場」を目指す。
トラムこそ通っているが、駅前通りとしては割と静かなニーウゼイテス・ヴォールブルグワル通り。大きなお店は少なく、個人商店や小さな飲食店が並んでいる。
青みかかった黒や茶色の壁の建物と、その特徴的な大きく縦長の窓がオランダにいることを実感させる。とっぷりと日が暮れたアムステルダムは街灯が少なくて暗い。でも、そのおかげでささやかなイルミネーションが引き立って見える。
ゆるやかなカーブを描く通りの先に「新教会」が見えてくると、そろそろダム広場。
左に折れて広場に出ると、いきなり熱気に溢れた空間にでる。
大きなBGMと行き交う人々。ライトアップされた新教会。通りを彩るクリスマスのイルミネーション。王宮の前では、まさに特設ステージの組み立て中。
恐らく、ジルベスターのカウントダウンイベントでも行なわれるのだろう。でも、大晦日は明後日に迫っている。ずいぶんギリギリの作業だな。
それはともかく、冬のヨーロッパの街って、もっと寒くて暗い感じかと思っていたら、案外明るくて賑やかじゃない!
むしろ、イルミネーションが夏よりも街並みを華やかに見せている。もっとも、夏は午後10時を過ぎても空が明るくて、イルミネーションやライトアップを楽しむ時間帯などほどんど経験したことが無かった訳だが・・・。
ダム広場を一巡りしたあと王宮の裏手に出て、ラートハウス通りを西方向へ進む。石作りのアーケードの下は商店街で、ニーウゼイテス・ヴォールブルグワル通りよりはだいぶ賑やか。車がひっきりなしに行き交っている。
ラートハウス通りは市内に幾重にも造られた環状運河をいくつも越えて行く。高さ85mの塔が聳え立つ西教会の先の運河で北に折れて少し進むとアンネ・フランクの家。
これが隠れ家?
立派な・・・といっても、海運で栄えたアムステルダムでは割とありふれた感じでもあるが、運河に面して大きな窓のあるこげ茶色の建物。
歩道にはアンネの部屋を見ようとする観光客で長い列ができている。時間に限りのある我々は列には並ばず、近くのベンチに座って一休み。
冷たく透き通った空気を通して水面に写った街の明かりが揺れている。風車の国ながら、街の中はあまり風が吹かないらしく、そんなに寒い感じはしない。
しばらくは環状運河の岸辺を南に進み、現れた小さな橋を渡って東へ伸びる裏道を歩く。小さなイルミネーションが灯るだけの暗い石だたみの道が続く。
一方通行の狭い石畳の道を、人と自転車に遠慮しながら車が過ぎていく。やがて、道の先に数人の警官のシルエット。彼らの脇を抜けると・・・やや!?
その先の橋のたもとで車が衝突事故を起こしていた。 あらあら・・・。
午後6時過ぎ、再びダム広場に立つ。フライトまであと2時間ほど。そろそろ行かねば。
ダムラック通りを歩いてアムステルダム中央駅へ向かう。さっき駅からダム広場まで歩いたニーウゼイテス・ヴォールブルグワル通りは、駅前通りとは思えぬ静けさが不思議だったのだが・・・そっか、こちらのダムラック通りがメインストリートだったのね。
イルミネーションが華やかでショーウィンドーも明るい。歩道は広いが、それ以上に人が多くて歩きにくいほど。
大きく「Amsterdam」と刺繍された毛糸の帽子をかぶった人がやたらと多い。そう言えば、みやげ物屋の店先には必ずぶら下がっている。みんな観光客なのだろうが、東京に「TOKYO」書かれた帽子なんかあちこちで売って無いよな?
駅は、到着した1時間半前よりも混雑していた。
まずは切符。でも、券売の窓口は大混雑で、かなり長時間待ちそうだ。我々の言語力では窓口よりも、券売機のスイッチの方が難しいが、あまり時間に余裕もないので行列していない券売機へ。その間に、あこはホットドリンクを買いにKIOSKへ。
ムム・・・小銭が足りん。
この券売機、お札は使えないがクレジットカードが使えるので、機械に書かれたとおりマスターカードを入れる。しかし、何度挑戦してもエラーで戻ってくる。
隣りの券売機に挑むがこちらもダメ。ひとり分だけは小銭があったので、とりあえず買っておく。あとは、あこがKIOSKでどれだけ釣り銭をゲットしてくるかだな。くそ~、時間ないのに~(イライラ)。
「切符の買い方を教えてくれ」
と話しかけてきたクルクルの金髪に陰気な目元をした細身の中年男性。どうして、ここで私を選ぶかな~。他にいくらでも西洋人がいるでしょうにッ! そもそも、切符の買い方知らないってどういうこと??
まずは英語表示に。それじゃ、お金を入れて。行き先どこ?1枚ね?ワンウェイでセカンドクラス・・・と。はい、おめでとう。いいねアンタは小銭があって。
何番線かって?そんなの知らないよ。オーバーゼアー(あっちの方)でしょ。じゃあね。
やれやれ、あこはまだかな?
ちょっとKIOSKのぞいてみよう・・・って、ナニよ?またアンタかい!なになに、ホームはこっちかって?違うよ、俺はKIOSKに行くの!ホームはあっち!!
KIOSKのレジは予想外の大渋滞で、あこはその行列の中。こりゃイカンな。
小銭が足りず、カードも使えない旨を伝え、あこと一緒に列に並ぶ。レジの店員はひとりだけで、通路までぐるっと伸びている列。
こっちの人は待つのはあまり苦にならないらしく、イライラしている風の人はいない・・・にしても、なんでKIOSKでラッピング頼むかな~。こらこら、スクラッチくじは脇によけて削りなさいよ!
ようやく小銭を手に入れたものの、時計はもう午後7時を指そうとしている。こりゃ、タクシーだな。空港行きの電車がすぐに来るか判らないし、また乗り間違いでもしたら命取りになる。買ってしまった切符は・・・ま、いいでしょ。
タクシー乗り場。周囲が工事中のせいか、ひどく狭苦しい車寄せにタクシーが数台並んでいる。
運転手というよりはヒップポップ青年のような彼。ラフな服装にスニーカー、そしてキャップを斜めにかぶっている。でっぷりとした警官と車の外でなにやら楽しそうに大声で立ち話をしていた彼は、我々が車に近付くと運転席に飛び乗った。
「ほらほら、お客さんだよ。行って来い!」
「言われなくても分かってますって」
ふたりのやりとりは、そんな感じ。この彼、きっと運転手になる前までは街でやんちゃしていて、警官とはその頃からの顔見知りなのかも知れない。
動き出したタクシーは、ほんの2~3m進んだところで狭い車寄せを曲がりきれずに切り返し。しっかりせんかい!と、からかい気味に警官が窓の外から声をかけてくる。
やがて駅前を脱出し、線路に沿って1~2分北西方向に走ったところで今度は路肩に緊急停車したかと思うと、彼は車外へ。どうやら、助手席が半ドアだったらしい。彼、大丈夫かいな?
アムステルダムはどうだった?と彼が聞くので「ビューティフル!ワンダフル!」と答える。彼は満足そう。今度は、空港からどこへ行くのか?と彼が聞くので「ウィーンだ」と答える。
「Celebrity!」
こんな我々でも、お金持ちに見えるのかねぇ?
CD聞いても良いか?と彼が聞くのでOKと答える。大音量でピップポップが流れ出した。頭のすぐ後ろにあるリアスピーカーはカバーが外れており、リズムにあわせてコーンの上で砂粒や小さなゴミが飛び跳ねている。この車、大丈夫かいな?