車がない!
旅にハプニングはつきもの。まして海外旅行となればなおさらだが、この日、我々を襲ったハプニングはこれまでの海外旅行における最高ランクに位置づけられるのではないだろうか?
8月17日金曜日。
明日のミュンヘン発の帰国便は午前中なので、実質的に今日が最終日。可能であればローテンブルクあたりまで北上したのち、ロマンチック街道を経てミュンヘン入りする目論見なので、少し早起きして、7時にはシャワーを浴びる。昨晩も早寝だったので辛くはないし、もともと旅先での寝起きは抜群によい我々。
さて、1階のレストランで朝食を摂り、部屋で荷物をまとめたらさっさとチェックアウト。石だたみの道を重たいスーツケースを転がして歩くのは骨が折れるので、昨日の夕方のうちにホテルすぐ側の広場のコインパーキングに車を移動させてあるのでラクチン...のはずだったのだが。
ホテルを出て10mばかり進んだあたりで、我々は広場の異変に気がついた。昨日の昼間は満車だったのに、今朝はそれらの車が全く見当たらない。いや、正確には多数の小型トラックが止まっており、それらは荷台に果物やら野菜やらを満載し、屋根からビニールの日避けを伸ばし、机や折り畳みコンテナを広げて開店の準備に勤しんでいる。
一夜にして、広場は市場に様変わりしていたのだった。
半笑いのままその場に立ち尽くす我々だったが、直後に膝から崩れ落ちる。イカン目まいが・・・。でも、もしかしたら我々の車だけポツンとその場に残されているかもしれない。スーツケースに手をついて何とか立ち上がり、その僅かな望みと緊張を胸に、いまや市場となった広場に歩を進める。この時間、まだ客の姿は少なく露店商の主人達はいずれも暇そうにしている。普段なら市場をそぞろ歩くのは楽しいが、さすがに今日この場でそれが出来るほど私は大物ではない。
やっぱ、ある訳ないわなぁ。
広場は隅から隅まであますところなく市場になっていた。もっとも、周囲を露店に囲まれていたら、それはそれで車が出せずに手の打ち様がなかっただろう。
こうなったら仕方ない。案外立ち直りの早い我々。今度は爆笑しつつ市場を出る。そしてグラーフ・ツェッペリンに戻るまでの僅かな時間に、レセプションにいた女性なんと言って助けを求めようかと頭を巡らす。これから伝えるべき内容は、私がこれまで経験してきたトラベル英会話のなかで最も難しいと言えよう(レベル低!)。
「昨晩、そこのPlatzに車を止めた。そしたらPolizeiが私の車をピックアップしていった。ヘルプミー!」
お付き合い程度に一瞬だけ目を見開いた(ように見えた)レセプションの女性。すぐに手際よく続けざまに2ヶ所に電話をし、そのあと我々にメモを差し出した。我々と同じ目に遭う旅行者は案外多いのかも知れない。
「じきにタクシーが来るから、ドライバーにそのメモを見せなさい」
やがて、タクシーがやってきた。タクシーのトランクにスーツケース2個を放り込み、ドライバーにメモを見せると、軽くうなずいてタクシーは走り出す。
ラインの塔の脇を抜けてライン川を渡り、そこから西の方へ向う。昨日も通った道だな。そう言えばこのタクシー、昨日と同じ車じゃないの?
昨日、車内で撮った写真をデジカメのモニターで確認する。車内の装備は同じ。ドライバーの後頭部や横顔もよく似ている。間違いない。やはりコンスタンツはタクシーの台数が少ないのか、それとも単なる偶然なのか...。
やがてタクシーは郊外の小さな工業団地の中へ。
あれ?
ここってレンタカーのオフィスがあった所でじゃないの?とか言ってる間に、タクシーはレンタカーオフィスの前に停車。これは一体...。
改めてドライバーに見せたメモを確認してみる。当然そこには「Hartz」などとは書かれていない。が、メモと同じ文字がレンタカーオフィスの隣りにある自動車修理工場に書かれているのを我々は発見してしまった。そしてオフィス前には仕事を終えたレッカー車が停まり、その近くでは今回の相棒「フォード・フォーカス」が我々の到着を待っていた。
自動車修理工場のおやじが出てきた。レンタカー屋の巨大な男性もいて、大きな体を揺するようにして肩をすくめて見せる。
やれやれ...まさか僅か半日でここに舞い戻って来る羽目になるとはなぁ。自動車修理工場のカウンターで罰金(というかレッカー移動代かな?)を支払う。日本円で約35,000円也。痛い出費ではあるが、まあ、警察沙汰にならずに済んだのは何より。
ネルトリンゲン
いや~参った参った!時計をみると9時を少し過ぎたところ。早起きだったから、いつもより行動開始時間としては早いくらいだが、今頃本当はアウトバーンをぐいぐい北上しているイメージだったのに。
では、気を取り直してレッツゴー!
さてルートを確認。ドイツってのはアウトバーンが網の目のように張りめぐらされているもんだと決めつけて、旅立ち前のルート調査を怠けていた訳だが....。
スイスとオーストリア国境に近いこのあたりはどうやら違ったらしい。
改めて地図をよく見てみると、一番近いアウトバーン入口はまでは西へ5kmくらい。でも、そこから乗ってもこれから向おうとしているネルトリンゲンや、今日の宿泊地ミュンヘンへは全然遠回り。
ボーデン湖畔沿いにアウトバーンはなく、北岸の一般道33号線を東進することになる。まずは、フリードリッヒハーフェンを目指し、そこから部分的に高速道路になった30号線を北上するルートを取ることとした。
33号線を一区間だけ乗ってすぐに降り、そこから一旦北上してクルリとボーデン湖の北岸に回り込む。
右にボーデン湖を見ながらのドライブ。田舎道なので流れは快調だが、主要道と交わる際にはご丁寧にインターチェンジになっている箇所が多い。さすがは自動車大国。
ところが、慣れない我々は間違った方向に進んでしまうこと数回。そして間違ったときに限って、なかなかUターンするスペースが見つからず、結構先の方まで進んでしまう。う~む、これは思ったよりも時間を要しそうだ。
天気は晴れ。昨日の雨の影響なのか、雲が多く霞もかかっていてボーデン湖の対岸は見えない。
ガイドブックにもこの辺りの情報はほとんど出ていないし、また、途中で何回か道を間違ったりして時間を食っているので、特にどこかに立ち寄るでも無く、右手にボーデン湖を見ながらノンストップで走りつづけることにする。
フリードリッヒハーフェンからは内陸部へ。30号線はなだらかなアップダウンが続く浅い谷間のような平原のなかに伸びている。工事箇所が多く、ときどき車線変更したり砂利道になったりしながら、名も知らぬ町と田園風景が繰り返すのどかで単調な景色の中を行く。
ようやく高速道路に入る。じきにウルムの街。ここで東西南北から5本の高速道路が交わっている。時刻は間もなくお昼。
こんなに時間がかかるならコンスタンツの西からすぐに高速道路に入って、少々遠回りでもシュトゥッツガルト経由の方がスピードも出せたし、道を間違うことも無く、きっと早かったに違いない。
ウルムを過ぎると、アウトバーンは緩やかにアップダウンを繰り返しながら森のなかを行く。ようやく本日の最初の目的地ネルトリンゲンへの最寄りインターが近付いてきた。ところが通行止め。どうとでも融通の利きそうなこんな田舎の平原で、なぜ?
やむなく次の出口まで行って、田舎道を東へ。平原と田園風景が広がるなかをのんびりと進む。つい昨日まで雪山と湖の国にいたのが嘘の様だ。
小さな集落をいくつか過ぎ、「ロマンチック街道」の看板が出てきたのでそこで右折。
しばらく進むとネルトリンゲンが見えてきた。赤茶色い屋根で統一された集落の真ん中にあるのは聖ゲオルグ教会の塔で、通称「ダニエル」。あいにく上の方は工場中らしく緑色のネットがかかっている。
まずは車のまま城門をくぐって町のなかへ。前後を走る車の流れに任せて進入禁止や一方通行の多い道を進むと、一瞬、間近にダニエルを見上げたかと思いきや、たちまち反対側の城門から外へ出てしまった。
城壁からすぐのところにある広いパーキングに車を止め、望楼を頂く城門の前に降り立つ。
ネルトリンゲンは周囲をグルリと城壁に囲まれた直径約1kmの円形の町。地図を見ると、城壁の外を時計回りに行ったすぐのところに砲台があるようなので、まずはそれを目指し、城壁の外側を歩く。
が、なかなか表れない。はて?そうこうするうちに次の門のところまで来てしまった。北側の門から入って南側の門を出て、そこにある駐車場に止めたつもりだったのだが、どうやら違っていたらしい。
もう一回地図をよく見ると、それぞれの門の名前が書いてある。それに門の上に建つ望楼の形もそれぞれ違っている。南側のレイムリンガー門を出たつもりが、どうやら北東にあるレプシンガー門に車を止めていたようだ。
目指していた砲台はレイムリンガー門から少し南西方向にある模様。このまま城壁の外を半周近くも歩くのもどうかと思い、一旦、砲台は置いといて、まずは今いる町の東にあるデイニンガー門をくぐる。
お!
門のところに階段があり、ここから城壁に登れるらしい。まずはここから攻めよう。木組みの屋根裏の下に伸びる廊下を、今度は反時計回りに進む。ところどころに銃眼があいている石壁が右手。左側には腰の高さほどの柵があり、重なり合う赤茶色の屋根の向こうに高さ約90mの塔ダニエルが見えている。中世の佇まいを残す街は静かで、人の姿は少ない。
レプシンガー門の望楼が小さな博物館のようになっていたが、ちょっと覗き込むと狭く薄暗い入口のところにポツンと受付のおばさんが座っているだけで他に客の姿も無く、なんとも入り辛い雰囲気だったのでスルー。地上に降りる。
町の中心に向かって歩き出すと、パラパラ雨が降り出した。だんだんと強くなって来たので、道の先に現れた黄色い壁の細長い建物の中に逃げ込む。
天井の高い屋内には、絵葉書やマグカップ等のおみやげや、ワインや農産物など地域物産品を売る店が市場のように並んでいて、簡単なフードコートもある。日本でも中規模観光都市の駅前や地方空港のロビーなんかにある、あの感じ。
雨が降っているせいもあるのか、ここには観光客の姿も多い。もともとこの建物は穀物倉庫だったらしい。
時刻は午後2時近い。小腹も減ってきたので雨宿りをかねて昼食にする。ソーセージのイイ匂いがしてくるカウンターには白い前掛けをした60歳過ぎくらいのおばちゃんがひとり。ときどき隣のカウンターの若い娘とおしゃべりをしている。
ドイツ語表記のメニューは解読が難しい。理解可能な単語だけ拾って、ソーセージのハンバーガーとノンアルコールビールをオーダー。
「ズッペは?」
「いいよズッペは。何のズッペが来るか分からんし・・・」
ドイツ語の「ズッペ(suppe)」がスープだということは知っていたが、じゃあ、それがどんな具で何味のスープなのか?まではメニューを見ても読み取れないし、かと言って店員さんに聞いてもヒヤリングが難しそうなので、あこの意見をさらりと却下。
ノンアルコールビールを受け取り、片隅に置かれた立食用の背の高い丸いテーブルのところで2-3分待っていると、おばちゃんがソーセージのハンバーガーを運んできた。うむ、旨い!
ハンバーガーをむさぼる我々の前に再びおばちゃんが現れた。手にズッペの小皿を持っている。
え?なに?サービスなの??
恐らく、我々がメニューを前にして「ズッペ、ズッペ」言っていたのを耳で拾ったのだろう。もしかしたら、嫁の希望を旦那が却下したあたりまでも雰囲気で読み取っていたのかも知れない。
ま、いずれにしてもこのおばちゃんは「ニン」と歯を見せる大きな笑みと共に何やらドイツ語を発しつつ、ズッペの小皿を我々のテーブルに置いてくれたのだ。
まったくドイツで出合ったおばちゃんは、みんなお節介なくらいに親切な人ばかりで嬉しくなってしまう。
ズッペの方はというと、ゴロンとしたジャガイモにタマネギにベーコン少々で、塩味がついた素朴なもの。恐らく、昔ながらのドイツ風ズッペなのだろう。ドイツの田舎に住む人々の温かさが伝わってくるようでとても美味い。
ダンケシェーン!!!
雨も上がっているようなのでダニエルを目指す。ひんやりと湿った空気が漂っている。聖ゲオルグ教会はこの穀物倉庫だった市場のすぐ隣りだった。小さな広場があって、雨上がりということで行き来する人もそこそこいる。ダニエルの上部は修復工事中らしく緑色のネットがかけられているが、どうやら上にあがることは可能らしい。
町を見張る番人がいるという塔の頂上を目指し、「どうでしょう軍団」も挑んだ350段の階段をぐるぐるとあがる。あとから来る人もいない様なのでゆっくりでOK。逆に降りてくる人もいない。
やがて階段が終わって、太ももの高さほどの木戸が現れた。その先が広い踊り場になっている。あと1-2段残したところで一旦停止。
石の階段を登ってくる足音で、きっと我々の存在は気付かれているに違いないが、そーっと身を乗り出して上の様子をうかがう。どうでしょう軍団の情報によれば、この先に「結構いい暮らししているジジイ」が居て、テレビを見ていて、入場料をとられることになっている。
板張りの踊り場にはテーブルと椅子がひとつ。壁には扉と四角い格子窓。格子窓の向こう側は住居と事務所の中間のような佇まい。
テレビの音は聞こえないが、明らかに人(結構いい暮らししているジジイ)が居る気配が漂っている。しばらく息を潜めたあと、足音を忍ばせてゆっくりと木戸を押す...。
チリン、チリン、チリン・・・
ジジイの部屋の中から鈴の音。すぐに扉を開けてジジイが出てきた。木戸に結ばれたヒモが壁と天井を導わってジジイの部屋まで伸びており、その先に付けられた鈴が木戸を開け閉めすると鳴るようになっているらしい。こんな原始的な手に引っかかるとはなんたる不覚!
水曜どうでしょうの映像から、いい暮らしをしているジジイは「どうでしょう班が発する気配や音を感じており、タイミングを見計らって部屋を出て来たのだろう」と想像していた。
しかし、真実はそうでは無かったのだ。改めて映像を見ると、確かに「チリンチリン」と鈴の音が入っている。
まんまと入場料をとられ(別にお金をごまかそうとしたわけじゃないけど)、それと交換に手渡されたのはジジイがその場で自らの指で1cmほど切り込みを入れたJRの切符ほどの大きさの入場券。ここで切符を手渡す意味がどこまであるのやら?お金だけ受け取ればいいじゃん?しかも、ちぎる必要性あるの?
まあ、それはともかくジジイの部屋を過ぎ、さらにもう一段上にある展望スペースへとでる。
回廊になった展望スペースは、胸の高さほどの分厚い石の柵で囲われていて、幅は1人が通るのがやっと。こりゃあデブにこの町の見張り番は務まらんな。
工事中なので周囲を何本もの足場のパイプが通っていたり、部分的に真下が見えなかったりするのは少し残念だが、赤茶色の三角屋根が密集する街並みや、城壁の外側を走る幹線道路や線路、隕石落下により出来たという直径24kmのリース盆地の輪郭もうっすらと判る。
もっとも、景色がどうこうよりも、「ダニエルに登った」という事実だけで、我々がネルトリンゲンを訪れた目的はほぼ達せられたようなものだったりする。ジジイの部屋のところで絵葉書を2枚買ったのち、ダニエルを降りる。
今夜のミュンヘンが旅の最後の宿。あまり遅くならないうちに着いておきたいので、名残り惜しいがボチボチ車に戻るとしよう。ぐるっと遠回りして街並みを見ながら駐車場へ戻ることにする。
1階よりも2階、2階よりも3階の方が張り出した壁を持つ家、切り妻屋根、木組みの壁、袖看板。
家々の屋根は赤茶色に統一されているが、家々の壁は少しずつ違っている。白・ピンク・ブルー・黄・茶・グレー・クリーム色などの家がごちゃまぜに並んでいて、なんとも可愛らしい。
ダニエル周辺は観光客の姿も多かったが、中心部を少し離れると途端に寂しくなる。地図を見つつ歩いても、どうも方向感覚が狂う。道は入り組んでいるし、ランドマークの「ダニエル」は家々の影になって見えない。
もっとも、見えたとしても町の真ん中にある訳だし、どこから見ても同じ姿だから、あまり役には立たないかも知れない。円を描く城壁に沿って歩くと、これはこれで方向感覚が狂う。中世の町を探検する感じで楽しい。
ドナウ川
ロマンチック街道に出て南に進路をとる。すぐに田園風景の中の直線道路。車はほとんど走っていない。
ひとつ目の集落を過ぎたところで、道にバリケードが置かれていて通行止め。やけに車が少ないな~と感じた理由はこれで分かったが、あの有名なロマンチック街道が、なぜいきなりここで通行止めなのかは不明。誘導員もいないし、迂回路の看板もない。さてどっちへ進んだものか...。
右に曲がると山がちのようなので、左に行ってみる。すぐに川にぶつかって道は左に折れる。逆に進んでいるなこれは。川に沿って道は何度かカーブし、やがて小さな橋を渡って対岸へ。
イカン、完全に方向感覚を失った。晴れていれば太陽の方向で見当をつけるのだが、あいにく今は曇り・・・ではなく先ほどからまた雨が降り出している。小さな集落を抜けると、また橋を渡る。これって、さっきと同じ川かな?
橋の上から見える低い丘の中腹に、大きなトラックがガンガン行き交っている道がある。あれが迂回路か、少なくとも幹線道路であろうと見当をつけ、そちらへ向かう。少し走ると、川を挟んですぐ向こう側にさっきの道が現れ、さらに少し行くと橋があり、目指す道に合流できた。右か左か迷ったが、とりあえず右のような気がするのでそちらへ。車の流れに乗ってしばらく行くと、小高い丘の上にお城が見えてきた。あれはハールブルク城ではあるまいか?
果たしてその通りで、ここでロマンチック街道と無事合流。田舎道だと思っていたロマンチック街道は予想外の高規格道路。スピードも出る。
これは案外早くミュンヘンに着けそうだし、再び雨もあがったので、もう一ヶ所だけロマンチック街道の町に立ち寄ることにする。ハールブルクの次にある町ドナウヴェルトは、ロマンチック街道が「美しく青きドナウ」と交差する地点。
ここにしよう。今回の旅でライン川の岸辺には立ったし、ローヌ川はこれまでも何回か出会っている。あとはドナウ川を見れば、ヨーロッパの三大河川とも呼ばれるこれらを制したことになる訳だ。
次の出口で高速2号線を下り、標識に従って一般道をハールブルク方面へ戻るように進む。小さな集落を抜け、橋を渡る。ひょっとして今のがドナウ川?
橋を過ぎて道なりに行くと、すぐに両側に切妻屋根が並ぶ通りにでた。観光客らしい人々の姿も見えていくらか活気もある。きっとこの辺がドナウヴェルトの目抜き通りなのだろうが・・・。
詳細な地図やガイドブックなどありはしない。とりあえず、路肩のコインパーキングに車を止めて歩くことにする。時刻は午後4時半過ぎ。
ドナウヴェルトのライヒス通りは、南ドイツで一番美しい通りのひとつと言われているらしい。どうやらここがそうだろう。
さっきの橋の方から来ると、通りは緩やかな上り坂。自転車を押しながら通りを歩くサイクリング途中の人達の姿が多い。切妻屋根が並ぶまっすぐな通り。色とりどりの家々の壁。教会の塔が2本見える。
広めの歩道はレンガ色の石だたみ。そこには街灯と草花が植えられている。街並みの印象が妙にすっきりと直線的なのは、恐らくドナウヴェルトは戦災にあっていて、復興・・・というか昔の街並みが再建されたのは比較的最近なのではなかろうか?
建物の形状はそれぞれ中世のものだが、その素材がどれもまだ真新しさが抜けきれない。買ったばかりの積み木で作った街のなかにいるような感じ。
緩やかな上り坂になったライヒス通りをそのまま進み、ひとつ目の教会を過ぎると道の正面に特徴的な建物が現れる。
白く大きな壁に、炎にもノコギリにも見える大きな屋根。勇ましい鎧兜の装飾のようにも見える。通りを見下ろす坂の頂上にこんな家を持てるということは、きっと町の名士だったに違いないが、特に観光スポットらしいアピールもされていない。
ふたつ目の教会の塔を目指してさらに奥へ進むと途端に人通りは無くなり、もの寂しい雰囲気になる。
すぐに塔の下へ出た。教会は森に接した町外れにあり、辺りはシーンと静まり返っている。結構大きな建物だが、教会というよりも貴族の屋敷を思わせる。中庭を持つ回廊状になった建物に、礼拝堂と塔がくっついたような造り。向かい側にもコの字型の建物がある。
教会の先は下り坂になっていて、広々とした河川敷の広場。川岸に木が生い茂っていてドナウ川の川面は見えない。道なりに左手の方へと河川敷を進む。
小道の両側にはびっしりと車が止まっている。街の人々の駐車場なのか、それとも観光客用の駐車なのか。
歩くうちにだんだんと河川敷が狭まってきて、小道の左側はレンガ組みの低い城壁・・・というか塀になり、右手には川岸の木々が近づいて来たってことは、いよいよ目の前にドナウ川が!
あれ?こりゃあ小川だな。
川幅はせいぜい5メートル。土手は盛られているが流れは遅く浅い。対岸の集落とを結んでいるのは小さな木の橋だけ。
恐らく、城壁とセットで街の防衛のためにドナウ川から引き込んだのだろう。
2つ目の小さな橋のところで塀が切れて小さな門になっている。細長く空へと伸びたユーモラスな格好は、小さいながらも望楼のつもりなのかも知れない。
小さな門をくぐって、再びドナウヴェルトの市街地へ。坂道の路地を進むとすぐにライヒス通り。ちょうど、我々の車のすぐ近くだった。
目の前にMigrosがあったのでドリンクを買い、あとは一路ミュンヘンを目指すだけ・・・って、まだドナウ川を見てないぞ!
来る時に通った橋まで戻って、橋のたもとの路肩に車を止める。ヨハンシュトラウスの「美しく青きドナウ」の鼻歌交じりに橋の上に出る。
ようやくドナウ川とご対面。ドイツの平原を旅するドナウの川面は穏やかで、音もなくゆったりと流れている。これがこの先でオーストリアに入り、ウィーンを経て、最後はルーマニアから黒海に注ぐ訳か...。水の流れってのは偉大だなぁ。
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