訊號山花園
10月1日(火)。中国では今日は国慶節の祝日。実際は、1週間通しで休日を取る人も多いらしい。一昨日の晩、道を聞かれた中国人親子も、国慶節の連休で香港を訪れたのかも知れない。
チェックアウトを済ませ荷物を預ける。朝食は一昨日と同じ麺家(ミンガー)へ。今日は蝦仁雲呑麺をオーダー。日本では体験できないほどエビがプリプリとしている。この違いはどこからくるのだろうか?
今日は別行動にしよう・・・ということになり、麺家を出てからはそれぞれ別方向へと進む。この辺、気遣いの要らない男友達はありがたい。T朗は買い物をするつもりらしい。
私は彌敦道を南へ少し歩き、左へ曲がり小高い丘を目指す。細い通りには大きなゴミ収集車が作業をしており、両側の歩道には大勢のアラブ系の男性が座ってこちらを見ている。
小高い丘の急な坂道を登っていくとレンガ造りの昔の灯台が見えてくる。
ここは訊號山花園(シグナルヒルガーデン)。頂上は広場になっており、太極拳をする人がいる。その向こうには香港島が見える。
私は持っていた紙に字を書き筆談に挑戦。
「我想影OK?(←写真撮っても良いですか?のつもり)」
太極拳をしている人達に見せ写真を撮らせてもらう。
的士
訊號山花園(シグナルヒルガーデン)を降り、地下道を通って海の方へと向かう。地上へ出ると、そこは新世界萬麗酒店(ニューワールドルネッサンスホテル)。
次の目的は、香港のタクシー(的士/テクシー)に乗ること。
香港タクシーはエリア各にボディ色が分けられており、九龍と香港島で見るのは、濃い赤のボディーに銀の屋根。車種は、ほぼ100%で「クラウン・コンフォート」。日本でもスタンダード車種だかドアの開閉は乗客が行なう。そもそも、ドアの開閉を運転手がしてくれるのは日本だけなんだとか。
ホテルのタクシー乗り場から乗り込む。初乗り15HKドル。行き先はどこでも良かったのだが、
「九廣鐡路駅」
と紙に書き、運転手に見せる。しかし、紙の文字を一文字ずつ指でなぞりながら読み、首を傾げる運転手。
「ガウ、ロン、ティエ、ロウ、マア?」
「駅」の字が理解できないらしく、「馬」の部分までしか読んでいない。
これは運転手が悪いのではなく私の間違い。紙に行き先を書くとき「廣」や「鐡」などの旧字体に気を取られすぎていて、「えき」は「站」と書くべきところを日本風に「駅」と書いてしまったのだ。書き直すとすぐに理解してくれた。
電車でどこまで行くのか?と運転手はカタコト英語で聞いてくる。駅を見に行くだけだと答えるが、伝わらない。彼は再び、電車でどこまで行くのか?と聞いてくる。
「駅に行くのが私のアイデンティティーだ」
通じたのか否かよく分からないが、どりあえず彼は黙ってハンドルを握っている。九廣鐡路站までは5分足らずで到着。壁も天井もガラス張りの部分が多く、陽の光を取り込んで明るい。電光掲示板を見ると、10分間隔程度で運行されている様だ。改札口を通過する人々は多いが、建物内が広いこともあるのだろう。街の様な喧騒はない。
午砲
九龍駅から再びタクシーで尖沙咀(チムシャツォイ)へ戻り、スターフェリーに乗り中環(ヅォンワン/セントラル)へ。
さらに地下鉄に乗り換え、銅鑼灣(トンローワン)で降りる。
時刻は午前11時30分。一昨日は青いカバーがかかっていて、その姿さえ見れなかった午砲(ヌーンデイガン)だが、今日はその発砲シーンが見られそうだ。
世界貿易中心(ワールドトレードセンター)を通り、地下道を通って道の反対側にある午砲へと向かう。地下道には海水が流れる太いパイプが通っており、怪しげな雰囲気。
岸壁に据え置かれた大砲にカバーはなく、濃い青の砲身と金色に輝く基部が見える。その数m後ろには青い制服を着た男性が立っており、時々、腕時計を確認している。
正午まであと1分足らず。
制服の男性が歩き出し大砲の手前にかかった鎖を外す。そして、大砲の斜め後ろにある鐘の前に立ち、腕時計を確認。鐘をカンカンと鳴らし、再び大砲の方へ歩き出す。
もう、撃つのかな?空砲とは言え砲弾を装填しないのかな?撃つ前に敬礼するとか?
ズゴーン!!!!!!!!!
男性が大砲の脇に辿り着いた瞬間、耳をつんざく大音響。直後に私のすぐ左側を青白い硝煙の固まりが風に流れていった。
待ち時間の割には、あまりに一瞬の出来事であったが、こんな大きい音を間近で聞く経験はあまりないだろう。儀式が終わると鉄格子の門は開かれ、子供達が大砲の周囲に集まってきた。
香港警察總部
ピックアップのバスがホテルに迎えに来るのは午後1時。まだ時間はあるので、もう1ヶ所くらい行けそうである。
香港と言えばジャッキーチェン。ジャッキーチェンと言えば・・・そう!香港警察。地図で探すと、金鐘(アドミラリ)駅のそばに「香港警察總部」とある。
駅で2つ分、3kmほどを歩いて向かう。白く塗られた高い壁。壁の上部には進入防止の有刺鉄線と見張り場所が設けられている。壁の向こうの建物は・・・ショック!!
なんと取り壊し中で、門は工事現場用のジャバラの鉄門で閉ざされていた。香港警察總部を示す看板なども見当たらなかった。足の疲労感が倍増する。
香港の街中は比較的治安が良いらしく、滞在中にサイレンの音を聞くことは1度もなかった。パトカーや警官の姿もほとんど目にしない。
中国本土の都市との違いは、信号機がキチンと設置され、車両も人もそれを守っている事。立体交差、右左折レーン、地下道や歩道橋が整備されている事。自転車やバイクが少ない事。道路をむやみに横断する人がいない事など。
車の量は少なくはないが渋滞はあまりない。むしろ、タクシーや2階建てバスも結構スピードを出して走っている様に感じる。
欧米では完全に歩行者優先。日本では歩行者優先と言いながらも、欧米よりはファジー。ここ香港では、信号や通行帯を守っている側が完全優先される様だ。
実際、通りや交差点では、車道と歩道が高い柵で区切られている場所が多い。
車も横断歩道では歩行者が途切れるまで車は停まって待っているが、横断歩道以外や信号を守っていない歩行者がいると、減速する様子もなくクラクションが鳴らされる。中国本土の都市では勘弁だが、ここ香港なら日本と同じ右ハンドルでもあるし、運転は出来そうだ。
出国
時間通り午後1時にホテルへ到着。T朗もほぼ同時にホテルのロビーへ入ってきた。彼がどこに行っていたか詳しくは聞かなかったが、前々日に私が行ったスーパーで、香港カップ麺と、南Y島で飲んだビールSun Miguelを購入していた。
昼食がまだだったのでハラが減ってきていたが、我々の乗るJL734便のフライトは午後4時35分。空港で充分な時間があるだろうから、そこで食べればよかろう。
迎えのマイクロバスに乗り込むと、香港に着いた時と同じように他のホテルに滞在しているツアー客も乗っている。
バスは街中を抜け、高速道路に入る。九龍のビル群が背後に去っていくと、左手には海運コンテナのターミナルやドックなどが現れる。ランタオ島に入るとビル群は見えなくなり、香港らしい景色ともお別れだ。
JALのチェックインカウンターに行くと、カウンターの前に張り紙がある。
「JL732・JL734便は東京地方に接近中の台風21号の影響により、到着時間や到着地の変更の可能性があります」
へえ~、日本には台風が来てるのか・・・。ちっとも知らなかった。ふと、チェックインしたチケットには「JL732便/フライト時間15:25」となっている。あれ?734便のはずだけど?
窓口の女性に聞くと「734便は運休となり、前の便の732便に振り替え」とのこと。あと1時間を切っている。出国手続き、保安検査、広い空港内の徒歩+モノレールの移動時間、お土産を買う時間など考えれば、決して充分な時間ではない。昼食を食べる時間は厳しいだろう。大急ぎで移動を開始する。
無事に搭乗口へ到着。
出発まではまだ30分近くある。昼食を摂るのは厳しそうだが、お土産を選ぶ時間くらいはありそうだ。あこ、家、会社、自分へのお土産を選び、機内でツマミにするためにスナック菓子を買い、残っていたHKドルのほとんどを消化。
T朗は「どうせ両替できないのなら」と乾電池やガムなどを選んでいる。まるで、パチンコの端玉を消化するかのように全額使い切るつもりらしい。
私の財布の中には、両親への話のネタに残した10HKドル札と1HKドル札が1枚ずつ、小銭が少々。予定通り、メデタシメデタシ。しかも、予定より早い便で帰れるのだ。搭乗開始までの数分間、椅子に深く腰掛け目を閉じる。頭の中は、既に自宅での晩酌のこと。久々に冷奴が食べられるぞ。