ベルンの街
天気が悪ければ街を見よう・・・ということで、ラウターブルンネンをあとにし、次の目的地を往路で通過したベルンに定める。インターラーケンの手前で高速道路に入り、トゥーン湖畔を行く。
湖が遠ざかり、ベルンに近付くにつれて、徐々に天気は回復してきた。往路の時にそうだったように標高の低いところは雲が比較的かかっていないらしい。
ラウターブルンネンを出てから約1時間、高速道路を降りる。緑の多い郊外を看板にしたがってベルンの旧市街へ。旧市街全体が世界遺産に認定されているというベルン。車の侵入も制限されているらしいから、果たして車を止める場所があるのかどうか、ちょっと心配。
「P」マークを追いかけて行くと、地下への入口に。そこには巨大な駐車場があった。
これはすごい。
駐車スペースは結構埋まっていて、停める場所を探す車の列にしばらくつかまっていたが、ようやく駐車スペースを確保。排気ガスが充満する中を歩き、人がやっとすれ違いができるくらいの細い階段を昇って地上を目指す。
地下駐車場の出入り口というよりは、非常階段から屋上のハッチを開けたような唐突な感じで地上に出る。そこは露店商が軒を連ねたエリア。多くの人々が行き来している。時刻は午後5時。青空も見えていて明るい。
スイスの首都ベルンは、首都というよりは賑やかな地方都市の様な雰囲気で楽しい。
普段着で気軽に買い物や食事ができる感じの店が並んでいる。素敵な中世の町並みをそのまま残しながら、そこで自然体の日常生活を送っている感じがとてもいい。
観光客のこちらも、観光地を見て歩くというよりは中世の街を探検するみたいで愉快な気分。
「おみやげを入れるカバンを買わないと!」
そんなことをふと思い出して、偶然見つけたカバン屋に入ってみる。これがパリやローマだったら、我々貧乏人には敷居が高い。ジュネーブでも多分そうだろう。
ベルンの街にはそれがない。カバン屋は1階と地下の2フロア。スーツケース売り場は地下だった。狭い階段と幅の狭い地下店内はいかにも中世の建物っぽい。ここで機内持ち込みサイズのサムソナイトを買う。150スイスフランほど。約1万3千円なり。
そいつをガラガラと引きずりながら街を歩く。考えてみからカバンなんか市内見物の最後に買えばよかったのだが、何も入っていないので軽く、邪魔というほどでもない。
路面電車のある通りにでた。
通りの真ん中に小さな噴水や塔があって、それを器用に避けながら線路がある。歩く人達も器用に電車を避けながら歩いている。
左手に小さな時計のついた尖んがり屋根が印象的な建物がある。牢獄塔というらしい。その股の間を路面電車がくぐっている。
ひょっこりと露店で賑わう広場の外れに出た。町の中心部に向かって広場を歩くが、いい匂いに誘われて途中の露店で春巻を買う。考えてみたら昼食抜きだった。
中国系のおばちゃんが妙に愛想が良いのは、我々が同じ東洋人だからかな?揚げたてのアツアツを露店脇の小さな噴水のところで食べる。ちょっと辛めの味付けが旨い。
ポロポロとこぼれる春巻の衣を狙ってスズメ達が寄ってきた。よし、お前らにも分けてやるぞ。あまり警戒心がないやつらで、衣を載せた指先のあと3cm位の所までは寄ってきて、小首を傾げていたりする。
手の平に衣を乗せて「手乗りスズメ」に挑戦するが、さすがに無理のようだ。露店のおばちゃんが笑顔でこっちを見ている。
さらに少し南へ進むと、ドーム屋根をした近世の大きな建物が現れる。連邦議会議事堂・・・つまりは国会議事堂だが、警備が厳重という感じはなく、建物の前は人々が普通に行き交う広場。
広場の敷石には仕掛けがされていて、石と石の隙間からモグラ叩きのようにあっちからピュッ、今度はこっちからピュッという具合に細い水柱を噴きあげている。
2人の幼女がそれを追い掛け回したり待ち伏せたりと大ハシャギ。当然、頭からビショビショになっているが、そんなことは全くお構いなし。母親達も時々声をかけるくらいで、別に咎めるでもなく放置している。
その可愛いらしさに、しばらく立ち止まって見とれる人々多数。我々もそのなかの一部になっている。ヨーロッパの短い夏をその小さな体で満喫する二人は、見る者をいつまでも飽きさせない。
広場には2人のハシャギ声がまだ響いている。
我々は連邦議会議事堂前をあとにして、その裏手へ移動。アーレ川を見下ろす見晴台にでた。川は大地を深く刻んで大きく蛇行しながら、ベルンの街を取り巻いている。川を跨いだアーチ橋の上を赤い路面電車が走っていく。路面電車のある街はなんだか素敵。川からは心地良い風があがってくる。緑が多いので目にも涼しい。
東へ歩いて行くと、車の往来が激しい道を渡って再び旧市街へ。その先に大聖堂が見えてきた。だんだんと近付いてくる大聖堂。
高い・・・というか極端にデカイ!
それもそのはずで、高さはスイスでナンバーワンだそうな。高さは100m。街は小さくても、さすがはスイス連邦の首都である。
「写真を撮って欲しい」
と話しかけてきた中東系の青年3人。どれどれ、カメラ貸してみなさい。
日本製の普通のコンパクトカメラだが・・・ダメだ。この距離からだと人物と大聖堂のてっぺんまでを一緒に収めるのは難しい。
少し下がってみる。
う~ん、これは余程後ろに下がらないと無理だな。少しあおってみたらどうだろう?
しゃがんでみる。結構いい感じだが、やっぱりダメ。そのまま2歩3歩と前へ・・・まだダメか。さらに前へ、さらに低く・・・。くっ、これはかなり厳しい体制。
「Impossible(不可能だよ)」
3人の中の一人が言った。
だよね・・・同感同感。じゃあ、上の方は切れちゃってるけど妥協してこの辺で撮るよ。3、2、1、スマ~イル!
お礼を言って3人が立ち去ったあと、ニヤリとしながら自分のニコンを差し出すあこ。ファインダーを覗いてみると・・・収まってる!ズームレンズを目一杯広角側に振ると、私の求めていた画がそこにあった。
大聖堂からひとつ北側の通りにでる。そこはクラム通り。石畳の車道は改良工事中であちこち掘り返されている。両側は商店街で、歩道の上にはラウベンと呼ばれる石造りのアーケードが続いており、ヒンヤリした空気が心地良い。
面白いのは、一定間隔で歩道から地下への階段があること。半数以上は観音開きの扉が閉まっているが、開いている幾つかを覗き込んでみると、階段を下りきったところから、いきなりアプローチなしで店になっている。大雨が降ったら、たちまち水没してしまいそうだ。
近くにアインシュタインが住んでいた家があるらしいのだが見つからず、かといって一生懸命探すこともせずにスルー。そのまま西へ歩いて行く。
今度は、体にピッタリと張り付いた派手なモード系ファッションで、並んで歩く双子の青年とすれ違う。茫然と見送る我々。いまのは何?
ベルンは面白い。
通りの先に大きなからくり時計がある建物がみえてきた。巨大な文字盤。時計のある建物というよりは、塔の形をした時計だな・・・これは。
ユーモラスなこの塔は、ベルンのシンボル「時計塔」。よく手入れされているらしく、文字盤の装飾がキラキラと光っている。
ここから先は、再びトラムが走るマルクト通り。初めのうちは危ない感じがして、トラムの近くを歩くのに少し戸惑ったが、今はむしろ快感(?)になりつつあり、わざと軌道の近くに立ってみたりする。通り過ぎるトラムが作る風と、ゴトゴトという振動。
ほんの少しだけだが、世界遺産の街ベルンを五感で味わえた気がした。
モルジュ
ベルンをあとにして、再び高速をレマン湖の方へと向かっている。まだ明るいので、走りながら次の目的地を探す。昨日は雨が激しくて立ち寄れなかったニヨン城に行こう・・・ということになる。
まずはモントルーに向かい、そこから湖畔に出て東に進めば良かろう。ナビゲーションよろしくな、あこ。
往路と同じグリュイエール湖畔のパーキングで一休み。その後もあこのナビに従いローザンヌの西のジャンクションで右に折れ、すぐの出口から一般道を少し走る。やがて湖畔の小さな街に到着。
ところが・・・。
ここって、モントルーじゃないじゃん!今どこ?
あこが指し示した地図のその場所は・・・
モルジュMorgesだった。これをモントルーMontreuxと読むのはだいぶ無理があるなぁ・・・ていうか「Mo」しか合っとらんじゃないか!!
まあ、いいや。せっかくだから予定を変更してモルジュ湖畔を散歩することにしよう。
少し前まで雨が降っていたらしく、あたりは濡れている。上空は曇り空。でも、遠く西の空は晴れていて、地上と雲の間から強い夕日が射してくる。このぶんなら、きっと明日は晴れるだろう。いや、晴れてくれ!
このあたりは静かなリゾート地らしく、桟橋にはヨットがたくさん係留されている。それらが真横から夕日を浴びて、白く輝いている。ヨットだけでなく、湖面や、雨に濡れた草木や、アスファルトの道路などあたり一面がキラキラと光ってまぶしいくらい。
桟橋にでて深呼吸し、澄んだ空気をいっぱい吸う。心まで澄んでいくようだ。あたりでは水鳥たちが羽根を休めている。
今日は朝も早かったので、明るいうちにジュネーブに戻ることにした。モルジュを出て30~40分で、トワイライトの空を突くレマン湖の大噴水が見えてきた。
長い一日も間もなく終了。お疲れ様。
湖畔に近い場所にコインパーキングの空きを見つけた。夜間は無料。ホテルまでは少し遠いが今夜はここに止めることにしよう。
夕食はメキシコ料理の店にした。
昨年のハワイ旅行以来、メキシコ料理店には良い印象を持っていて、ことあるごとについついメキシコ料理店に足を運んでしまう我々。
モンブラン通りに近いその店。
今回、テキーラショットはなかったが、陽気な店員と賑やかな店内は楽しい雰囲気。コロナビールとスパイシー料理が、旅の疲れも残念だった天気のことも吹き飛ばしてくれる。
明日があるさ、明日が!