レッド・ロック・キャニオン
7月6日(土)朝。昨晩、部屋に戻った時には、まだ姿を見せていなかった同室の彼だが、目が覚めると隣のベッドに寝ている。ここで、初対面の挨拶。彼が部屋に戻ってきたのは午前2時頃だという。
午前8時15分。カジノフロアのエレベーターホールに7名が集合。男は私1人。女はあこ、K松、T谷、W井、K橋、K島の6人。ストリップを南へ500mほど行ったところにあるホテル・ハラーズへと向かう。
このホテルの中に、日本からネット予約したレンタカー「ハーツ」の営業所がある。朝のストリップを走る車は少なく、片側3-4車線の通りはガラーンとしている。左右を確認したら横断歩道でないところを悠々と渡ってハラーズのエントランスに入る。
カジノフロアの一画にハーツの窓口はあった。カジノも早朝という事でガラガラ。無人のスロットマシンから時折ピロピロと聞こえてくる音が気だるい感じ。
さて、7人乗りのミニバンを予約していたのだが、「7人乗れるからフォード・エクスプローラにしてくれ」との事。再交渉する英会話能力は持ち合わせていないのでこれを了承。この車種変更が、このあと結果的に「吉」と出るのだが、それはまだ先の話。
営業所の窓口は午後7時までなので、それ以降の返却は指定場所に車を停め、キーやその他の書類を営業所脇のポストへ入れておくというシステムとのこと。
係員はキーと関係書類を渡すだけで車までは案内してくれないので、ハラーズの立体駐車場内にあるエクスプローラをら見つけるのに手間取ったが、3列シートの助手席にあこ、その仲間達5人を2列目と3列目に乗せて出発。
今回の目的はデスバレーのドライブ。だが、手始めにラスベガスから30分ほどで行けるレッド・ロック・キャニオンを目的地に設定。
初めて運転する左ハンドルで、割とボディの大きいエクスプローラーだが、車幅感覚に違和感は少なく、左側通行もすぐに慣れるが、右のミラーがとても小さく見えるのがちょっと不思議な感じ。右左折にはもっと戸惑うかと思ったが案外と平気だ。
片側3車線のストリップを北へと向かう。
それにしても、周囲のマナーの良さには感心させられる。速度、車間距離、レーン変更、右左折時など、日本とは比べものにならないくらい丁寧で大人しい。映画などで見るカーチェイスのイメージがあったから、これはとても意外だった。
途中、マクドナルドに寄って朝食。ドライブスルーがある。でも、顔も見ずに英語でオーダーするのは困難と判断し、店内へと入る。アメリカ人は本当にハンバーガー好きな人種らしい。4ヶ所が開いたレジは朝っぱらから長蛇の列で、5分くらい待つことになったり
7人のメンバーのうち6人は、オーダーしたブツを袋に入れてもらってテイクアウト。ところが、最後尾に並んでいたあこだけがトレーを持っている。なんで?
どうやら、英語が通じずテイクアウトに失敗したらしい。英語では「To go」って言うんだよ。教えてあげとけばよかったね。
マクドナルドを後にして、再び北上。チャールストン通りで左折し159号線を西へ向かう。周囲は郊外型のショッピングセンターと住宅地などが広がっている。やがて民家はなくなり、道は茶色い荒野へと突入する。
やがて、道路脇にレッド・ロック・キャニオンの巨大な岩の看板が現れる。せっかくなので車を止めて記念写真でも…。
そこへオープンのジープに乗った金髪3人娘が登場。颯爽と車を降りる3人娘たち。タンクトップの胸元がまぶしい。彼女たちが写真を撮ってくれた。サンキュー!そして、お友達になりたいッス!
もうすぐ、レッド・ロック・キャニオン。青く澄んだ空。それと対照的な赤い帯が刻まれている荒々しい山肌が見えてくる。行く手を遮る様に屹立する稜線が、地殻変動の激しさを物語っている。
シーニック・ドライブループ
ラスベガスの中心部から約30分。レッドロックキャニオン地域の中を通る周回観光道路「シーニックドライブループ」の入口へ到達。
159号線から右折すると、すぐに料金所。ここで料金5ドルを支払って1周約13マイルのシーニックドライブループへと突入。道は一方通行。
すぐに、ゴロゴロとした赤い岩山が見えてくるとキャリコ展望台(CALICO VISTA)。
立ち木などの比較対象がないので良く判らないが、岩山の高さは100~150mくらいだろうか?
シーニックドライブループは、アルファベットの「C」の字を少し右に傾けた様に道路が走っている。カリコ展望台は、その書き出しのあたり。
岩の斜面には、この強烈な暑さの中をトレッキングをする人達の姿も見える。
次のビューポイントは、ルートの最北端に近い場所。ここは周回道路の最も標高が高い地点で、壮大な景色が目の前に広がっている。アメリカ大陸の大きさを実感。
イバンパ・ドライ・レイク
159号線から160号線を経由してラスベガス市街ヘと向かう。荒野の先の地平線から林立するホテル群が見えてくる。日本では考えられない景色。
途中、セブンイレブンでトイレ休憩&食料・飲料を補給。高速15号線に入り、南へと向かう。
車の量はさほど多くない。オートクルーズを使いつつ、速度65マイル前後で快調に進む。周囲の車も同様にオートクルーズが装備されているのだろう。走行車線では、みんな一定の車間を保ちながら上品に走っている。
道の周囲に防音壁などはなく、エクスプローラーのシート位置の高さもあって、視界はとても開放的。遠くには岩肌が露出した山。手前には電柱、背の低い植物、それと時折現れる標識だけが続く。 道路脇にはバーストしたタイヤの破片が沢山転がっている。やはり、気温が高いためにタイヤが劣化しやすいのだろうか?
2列目と3列目の5人は睡眠モード。お~い、今寝ると時差ボケ治らんぞ。
高速に入って35マイルほど進むと、広大な敷地を有するファッションアウトレット・ショッピングセンターが現れる。この先でネバダ州は終了。カリフォルニア州へと入る。
やがて、それまで見えていた丈の低い植物さえも見えなくなり、白く光る砂漠地帯へ突入する。この白い砂漠地帯はイバンパ・ドライレイク(IVANPAH DRY LAKE)。太古の昔に干上り、湖底が露出して出来た砂漠なのだそうだ。前と左右の3方向に逃げ水を見ながら走る約10マイルの間、車窓には全くの不毛の地が続く。
ドライレイクを抜けると緩やかな上り坂。その坂の途中の高速15号線を上を跨ぐニプトンロードに入るべく側道へ。ニプトンロードの陸橋上に車を停めて、ネバダ方向を振り返る。
広い・・・。
とにかくその広さに圧倒される。周囲を山に囲まれた広大な平野と、そこに白く見えるドライレイク。これを、真っ直ぐに伸びる高速15号線が貫いている。
キングストン山脈
陸橋の上から雄大なパノラマを見つつ、地図を広げて再度ルート確認。
今回の目的地デスバレーを目指すルートはふたつ。ひとつ目は、このまま高速15号線をさらに約35マイルほど西へ進み、そこから127号線を北上するルート。もうひとつは、それより手前のVALLY WELLSからキングストン山脈を越えていくルート。後者の方が少し道のりが短そうだったので、こちらを選択。
分岐点はここから約15マイルの地点。しかし、あとでこの選択を悔やむこととなる。
VALLY WELLSで高速側15号線を離れて北上。道は片側1車線の舗装道路。周囲は荒野が続き、対向車は全くいない。走るうちに道は徐々に細くなり、舗装がだんだんと悪くなってくる。曲がるポイントを間違ったかな?
不安になって、持ってきたコンパスと地図、車のオドメーターを見比べる。どうやら間違ってはいない様だ。しかし進めど進めど、相変わらず対向車も現れず道もだんだん悪くなってくる。電柱や標識もなく、人間の営みの気配は感じられない。
「このまま進んで、ネバダの水爆実験場に迷い込んだりして・・・」
(※これは誤り。現地は数100マイル北にある。それにここはカリフォルニア州)
高速を離れてから1時間近くが経過。すでに30マイルほど来ていた。いまさらUターンする距離ではない。やがて道はダートへ変わった。エクスプローラーの性能上、走行には何の支障もない。でも、パンクやオーバーヒートをしたらどうしよう。他に車も通らないし・・・。
ガタガタする車の震動で、寝ていた5人も目を覚ましたようだ。嫁入り前の娘5人(あこ、K松、T谷、K橋、K島)と新妻1名(W井)を乗せている。責任は重大。なんかあったら親御さんに申し訳がたたん。私の腹は「このまま前進」と決めていたが、車を停めて地図を見せながらメンバーに状況を報告する。
・だぶん道は間違ってはいない。
・この先、道はますます悪くなるだろう。
・今のガソリン残量では、山越え後すぐに給油しないとデスバレー突入は困難。
・よって、山越え後は西(デスバレー方面)ではなく東へ進んでスタンドを探しを優先する。
・来た道を戻って127号線へ向かえば高速上にS.A.があり給油は可能。
・しかし、この場合は約2時間のロス。デスバレー突入は夕方になる。
メンバーの同意を得て、車は再び前進を開始。実際は「同意」じゃなくて「免罪符」作りだったかな?
道は更に高度を上げて山道へと変化。開けていた視界は岩山で遮られてしまった。小さくカーブを切るたびに道幅は段々と狭くなり、やがて路面は起伏の激しいオフロードとなった。ここでエクスプローラーが本領を発揮。うねるような悪路を、その頑丈そうなボディを揺すりながらもグイグイ登って行ける。
後席のメンバーは、車が飛び跳ねるたびに喜声を挙げてハシャいでいる。いやぁ、これが当初に予定していた7人乗りミニバンだったら、ここで引き返すことになっただろう。突然の車種変更はラッキーだったのだ。
やがて少し視界が開けると、そこは砂利採石場の様な狭い盆地。ようやく人間の息遣いを感じるところ出た。誰かいたら現在地くらいは確認してみようと周囲キョロキョロしながらゆっくりと進む。
壊れかけた小屋、放置されたダンプ・・・。
でも、動くモノは確認できない。もう、使われていないのか?もっとも、今日が土曜日だから休みなのかもしれない。恐らく後者だろう。
まさか、ここで行き止まりか?
いや、あの放置ダンプが今走ってきた悪路を来たとは考え難いし、地図も行き止まりになっていない。だから、他にふもとにつながる道があるに違いない。周囲を見回しながらソロソロと車を進める。
やがて、盆地の切れ間を発見。そこから道は下り坂へとさしかかった。よ~し、キングストン山脈を越えたぞ!
道の起伏は減り、道幅も急にひろくなる。しばらくすると道路の左には電柱が現れた。もう大丈夫。電線の先にはきっと町があるだろう。
山裾の延々と続く直線道路を快調に進むエクスプローラー。時折、小さな枝道と合流しながら山を下っていく。バックミラーには、巻き上げた砂ぼこりが煙の様に横へ流れていくのが写っている。進行方向には遥か彼方に見える山並み。その手前がうっすらと緑色に霞んで見える。あの辺りに町があるかも知れない。ようやく、気持ちに余裕が出てきた。
「トイレ行きたい人?」
K松が手を挙げる。私だけならその辺で済ませるのだが、女性はそうはいかない。町はまだか?
荒野のテコパ
山を下り始めてから小1時間、道の先に民家が見えてきた。これでひと安心。結局、高速を下りてからここまで、放置ダンプ以外は1台も車を見なかったな。
地図にはTECOPAと書かれた小さな小さな集落に到着。あそこに1軒ここに1軒といった具合に民家が点在しているが、人の姿は見えない。トイレは?ガソリンスタンドは?
路肩に車を停める。こうゆうとき男がひとりってのは都合が悪い。女性6人を車内に残して偵察に出ないといけないのだ。ここにマッドマックス的な荒くれ者が現れたらひとたまりも無いな。
「なんかあったら逃げろよ」
などど格好イイことを言って車を離れたものの、心の中では「逃げるにしても、運転出来んだろな」と呟いていた。車から数歩はなれて立ち止まり、グルリと周囲を見まわす。砂ぼこりを交えた乾いた風の音と、かすかに聞こえるエクスプローラーのアイドリング音以外は何も聞こえない。
道に面してカフェがあるが、ドアは動かない。窓から薄暗い店内を覗き込む。どうやらツブれていているらしい。
その隣はコインランドリー。こっちは扉は開いたものの誰もいない。中の荒れ具合からみて、これもツブれているようだ。ここは、廃墟の街なのか・・・?
荒野のガンマンが、見知らぬ街に入った時って、きっと、こんな気持ちなのだろう。不安なような拍子抜けしたような感じ。
コインランドリーのその先にプレハブかトレーラーハウスの様な建物。郵便局だった。壁際にあるエアコンの室外機がウィーンと低く音を立て、ドアが細く開いているから、ここは営業中なのだろう。
でも、ノックして声をかけても返事は無く、人の気配も無い。中をのぞいて見たい衝動に駆られるが・・・
ズドンッ!!
などと恐い想像をしてしまい、ひとまず郵便局は諦める。
郵便局の先に教会を発見。ここなら公共施設だからトイレがあること期待大。礼拝堂正面の大きな扉に手をかけて押し引きするが、ここもカギが閉まっていてた。さらに教会の裏手に廻ってみると、そこに小さな離れを発見。ふたつ並んだ扉と小さな窓は、いかにもトイレっぽい。
「キィ~」
小さな音をたてて開いたドアの先には白く輝く便器があった。みんな良かったね♪
「水が流れない」との申し出がT谷からあったので、小屋の裏手に回って水道の元栓を探す。あった!あった!これで流れるでしょ?
まったく、アメリカの砂漠まで来て何やってんだか・・・。
トイレは解決したので、続いてはスタンド探し。誰かに道を聞くしかない。気が付けば、我々が教会のトイレと格闘している間に、郵便局の前に小さなトラックが停まっている。
「村人第1号発見!」
色褪せに加えて砂ぼこりが乗って、限りなく灰色に近い薄いブルーをしたボティ。数ヶ所をガムテープで止められたボンネット。このトラックの主は白髪だらけの不精ひげにランニングシャツ、くわえタバコで、いかにも「カントリーじじい」といった風貌の白人男性。なにか書類の束のようなものを郵便局内へ運び込んでいる。
話し掛けるタイミングを見計らっていると、そこに車がもう1台やってきた。車を降りた村人第2号はヒスパニック系の若い男性で、カントリーじじいに話し掛けた。細かい内容は聞き取れ無いが、どうやらガソリンスタンドの場所を聞いているらしい。これはラッキー!彼との話が終わると、カントリーじじいは私の方へと振り返り、
「お前もか?」
と聞いてくる。向こうから話し掛けてくるなんて、またラッキー!しかし、「ガソリンの残りが少ない」といった難易度の高い言葉がとっさに出ない。
「イエス、エンプティ」
「What?!」
くわえタバコを踏み消してカントリーじじいは目を見開いた。ガス欠していると思ったのだろう。1/4しかない・・・と言い直す。すると、ヒスパニックの彼が言ってくれた。
「Follow me!(ついて来い)」
またまたラッキー!彼の後ろについてガソリンスタンドまでランデブーとなった。